佇立たちどま)” の例文
容子ようすがドウモ来客らしくないので、もしやと思って、佇立たちどまって「森さんですか、」と声を掛けると、紳士は帽子に手を掛けつつ、「森ですが、君は?」
鴎外博士の追憶 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
何か斯う物を考へ/\歩いて行くといふことは、其の沈み勝ちな様子を見ても知れた。暫時しばらく丑松も佇立たちどまつて、じつ是方こちらの二人を眺めて、軈て足早に学校を指して急いで行つた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
彼女との結合の絲が、煩はしい束縛から、闇地を曳きずる太い鐵鎖とも、今はなつてゐるのではないかしら? 自分には分らない。彼は沈思し佇立たちどまつて荒い溜息を吐くのであつた。
崖の下 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
「あらッ‼」と、いったままちょっと段階だんばしごの途中に佇立たちどまった。そしてまた降りて来た。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
つねに先頭をしているT氏はもううしても暗くて途が分らぬと言いながら佇立たちどまった。
武甲山に登る (新字新仮名) / 河井酔茗(著)
跡は両側の子供が又続々ぞろぞろと動き出し、四辺あたりが大黒帽に飛白かすり衣服きもの紛々ごたごたとなる中で、私一人は佇立たちどまったまま、茫然として轅棒かじぼうの先で子供の波を押分けて行くように見える車の影を見送っていた。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
丁度秋の中頃の寒くも暑くもないこころよい晩で、余り景色が好いので二人は我知らず暫らく佇立たちどまって四辺あたりを眺めていた。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
高瀬も佇立たちどまって、「畢竟つまり、よく働くから、それでこう女の気象が勇健つよいんでしょう」
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
二、三間先に走っていたお宮ははたと佇立たちどまって
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
或人が不斗ふと尋ねると、都々逸どどいつ端唄はうたから甚句じんくカッポレのチリカラカッポウ大陽気おおようきだったので、必定てっきりお客を呼んでの大酒宴おおさかもり真最中まっさいちゅうと、しばらく戸外おもて佇立たちどまって躊躇ちゅうちょしていたが
庭の木立を洩れる音を塀越しに聞いて茫然ぼんやり佇立たちどまる人も大分あるさうだ。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)