)” の例文
行きうている会社員たちの洋服はたいてい白っぽい合着に替えられて、夏にはふさわしい派手な色のネクタイが、その胸に手際よく結ばれていた。
青木の出京 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
ぜんを引かせて、叔母の新らしくれて来た茶をがぶがぶ飲み始めた叔父は、お延の心にこんなったわだかまりが蜿蜒うねくっていようと思うはずがなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
橋の上には、宵の人影もままぎるが、そこは瀬の水音と、とびう蛍だけだった。三名は腰をおろして、しばしもだしあった。夏も忘れ、生きる苦患くげんも薄らいでくる。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その闇を背景として、背景よりはいくらか黒い紫色で、蝙蝠こうもりの群がせわしくとびうている。
南方郵信 (新字新仮名) / 中村地平(著)
が、群青色ぐんじょういろにはろばろと続いている太平洋の上には、信天翁あほうどりの一群が、飛びうているほかは、何物も見えない。成経や康頼を乗せた船が、今まで視野の中に止っているはずはなかった。
俊寛 (新字新仮名) / 菊池寛(著)