九谷くたに)” の例文
その下は押入れになっている。煖炉があるのに、枕元まくらもと真鍮しんちゅうの火鉢を置いて、湯沸かしが掛けてある。そのそば九谷くたに焼の煎茶せんちゃ道具が置いてある。
鼠坂 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
或日室生は遊びに行つた僕に、上品に赤い唐艸からくさの寂びた九谷くたにの鉢を一つくれた。それから熱心にこんなことを云つた。
野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
まもなく、とんだ具足を入れた鎧櫃と、ついでに、妻恋坂の殿様お買い上げの九谷くたにの花瓶を積んだ小手車が、久七の手で閑山の店から引き出された。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
この山の鍋島焼きは、二百年来の秘密窯ひみつがまで、殿様初め佐賀城につぐ宝だとしているものだ。九谷くたにの者なぞに、窯築かまつきの法や薬合せを盗まれてたまるものか。
増長天王 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
姉は丹念にそれらの箱の真田紐さなだひもを解いて、志野焼の菓子器とか、九谷くたにの徳利とか、一つ一つ調べては元通りにして、持って行く物、置いて行く物、処分してしまう物
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
紫檀したんの盆に九谷くたにの茶器根来ねごろの菓子器、念入りの客なことは聞かなくとも解る。母も座におって茶を入れ直している。おとよは少し俯向うつむきになってひざの上の手を見詰めている。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
我国の膳部ぜんぶにおけるや食器の質とその色彩紋様もんよう如何いかんによりてその趣全く変化す。夏には夏冬には冬らしき盃盤はいばんを要す。たれまぐろの刺身を赤き九谷くたにの皿に盛り新漬しんづけ香物こうのもの蒔絵まきえの椀に盛るものあらんや。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
ここは北陸の九谷くたにと並んで磁器の二大産地であります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
きっと金沢の九谷くたにかどこかの廻し者で、色鍋島いろなべしま錦付にしきつけ釉薬うわぐすりの秘法を盗みに来たやつに相違ありません
増長天王 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
九谷くたに焼の湯呑茶碗を茶托に乗せたのを目八分に捧げ、ドアの開け方、足の運び方、退歩の礼など、ずいぶんやかましいしつけであった。だから第一回のときには、手がふるえた。
「おい! 加賀ッぽう! 加賀の九谷くたにから来た兆二郎ッ」
増長天王 (新字新仮名) / 吉川英治(著)