不料簡ふりょうけん)” の例文
子飼こがいの時より一方ひとかたならぬ大恩を受けながらそのような身の程知らずの不料簡ふりょうけんは起しませぬ思いも寄らぬぎぬでござりますと今度は春琴に口を
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
が、日頃のおこないから察して、如何いかに、思死おもいじにをすればとて、いやしくもぬしある婦人に、そういう不料簡ふりょうけんを出すべきじんでないと思いました、果せるかな
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
安東県の宿屋の番頭がどう云う不料簡ふりょうけんか、橋本博士御手荷物のうちと云う札を余の革鞄かばんにぴたぴたいわいつけてしまった。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それもこれもみな荒木一人の逆意から——不料簡ふりょうけんから——と、世人はごうごうと彼の罪を責め、またこれらの人質を捨てて逃げた親たちを恨みののしった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「とんでもねえ、放したらまた飛込むだろう。どんなわけがあるか知らねえが、死ぬのは不料簡ふりょうけん——」
「たとえにもよりけりだ。孔孟こうもうの道を百貨店の仕入れ物と一しょにするばかがどこにある? 教師からしてそういう不料簡ふりょうけんだから、世道日におとろえ人心月にすさむばかりだ。ちっと反省しなさい」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
ただ一昼夜が十二時間に縮まって、運命の車が思う方角へ全速力で廻転してくれるよりほかに致し方はない。進んで自然の法則を破るほどな不料簡ふりょうけんは起さぬつもりである。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)