一頭ひとつ)” の例文
一頭ひとつ、ぬっと、ざらざらな首を伸ばして、長くって、汀を仰いだのがあった。心は、初阪等二人とひとしく、絹糸の虹をながめたに違いない。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……覗くと、静まり返った正面のきざはしかたわらに、べにの手綱、朱のくら置いた、つくりものの白の神馬しんめ寂寞せきばくとして一頭ひとつ立つ。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……覗くと、静まり返つた正面のきざはしかたわらに、べに手綱たづなしゅくら置いた、つくりものの自の神馬しんめ寂寞せきばくとして一頭ひとつ立つ。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
そのかわり、牛が三頭、こうし一頭ひとつ連れて、雌雄めすおすの、どれもずずんとおおきく真黒なのが、前途ゆくての細道を巴形ともえがたふさいで、悠々と遊んでいた、渦が巻くようである。
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「若様どうぞ、そりゃ平に、」とばかり、荒馬を一頭ひとつ背負しょわされて、庄司重忠にあらざるよりは、誰かこれを驚かざるべき。見得も外聞も無しに恐れ入り
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
檐下のきしたに、白と茶の大きな斑犬ぶちいぬ一頭ひとつ、ぐたりと寝ていました。——あの大坊主と道づれでしたが。……彼奴あいつ、あの調子だから、遠慮なしに店口で喚いて、寝惚声ねぼけごえをした女に方角をききましたっけ。
露萩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
裸身はだかみに、あの針のざらざら刺さるよりは、鉄棒かなぼうくじかれたいと、覚悟をしておりましたが、馬が、一頭ひとつ背後うしろから、青い火を上げ、黒煙くろけむりを立ててけて来て、背中へつかりそうになりましたので
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)