一輛いちりょう)” の例文
新妻が、身と共に、そこへ持って行った荷物といえば、一荷いっかの衣裳と、髪道具と、そして、一輛いちりょうくるまだけであった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
アウグスツスのひろこうぢに余りて列をなしたる馬車の間をくぐり、いま玄関に横づけにせし一輛いちりょうより出でたる貴婦人、毛革の肩掛を随身ずいじんにわたして車箱のうちへかくさせ
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
すなわち横ぎりにかかる塗炭とたんに右の方より不都合なる一輛いちりょうの荷車が御免ごめんよとも何とも云わず傲然ごうぜんとして我前を通ったのさ、今までの態度を維持すれば衝突するばかりだろう
自転車日記 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
溜池ためいけまで来た時、うしろからやっと一輛いちりょう満員の車が走って来た。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
朱雀すじゃくのあたりで火事のやむのを待っている雑鬧ざっとうの中で見とどけた一輛いちりょう蒔絵輦まきえぐるまが、十人ほどの家の子の打ちふる松明たいまつに守られながら、大路の辻を西へ曲りかけた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
空気透徹すきとおりたれば、残るくまなくあざやかに見ゆるこの群の真中まなかに、馬車一輛いちりょうめさせて、年若き貴婦人いくたりか乗りたれば、さまざまのきぬの色相映じて、花一叢いっそう、にしき一団、目もあやに
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
ただ一輛いちりょう蒔絵輦まきえぐるまが、路ばたの流れの中へ片方のわだちを落してかしいでいた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)