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シナじん
それは
興行のためにと
香港へ
赴かんとて、
此船に
乘組んで
居つた
伊太利の
曲馬師の
虎が
檻を
破つて
飛び
出した
事で、
船中鼎の
沸くが
如く、
怒る
水夫、
叫ぶ
支那人、
目を
暈す
婦人もあるといふ
騷ぎで
事務室のまん中の大机には白い
大掛児を着た
支那人が二人、差し向かいに帳簿を
検らべている。
一人はまだ
二十前後であろう。もう一人はやや黄ばみかけた、長い
口髭をはやしている。
……
支那人たる貴下のために、
万斛の同情無き能わず候。