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ぬれつち
小松に
触る雨の音、ざらざらと騒がしく、
番傘を低く
翳し、
高下駄に、
濡地をしゃきしゃきと
蹈んで、からずね二本、痩せたのを
裾端折で、
大股に
歩行いて来て額堂へ、
頂の方の入口から
……
前へ/\、
行くのは、
北西の
市ヶ
谷の
方で、あとから/\、
來るのは、
東南の
麹町の
大通の
方からである。
數が
知れない。
道は
濡地の
乾くのが、
秋の
陽炎のやうに
薄白く
搖れつゝ、ほんのり
立つ。
白泡のずぶずぶと、
濡土に
呟く蟹の、やがてさらさらと穂に
攀じて、
鋏に月を招くやなど、
茫然として
視めたのであった。