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おほがに
……
嘗て
佃から、「
蟹や、
大蟹やあ」で
來る、
聲は
若いが、もういゝ
加減な
爺さんの
言ふのに、
小兒の
時分にやあ
兩國下で
鰯がとれたと
話した、
私は
地震の
當日、ふるへながら
「むき
蟹。」「
殼附。」などと
銀座のはち
卷で
旨がる
處か、ヤタ
一でも
越前蟹(
大蟹)を
誂へる……わづか
十年ばかり
前までは、
曾席の
膳に
恭しく
袴つきで
罷出たのを、
今から
見れば、
嘘のやうだ。