-
トップ
>
-
いへゐ
一とせ
下谷のほとりに
仮初の
家居して、
商人といふ名も恥かしき、
唯いさゝかの物とり
並べて
朝夕のたつきとせし頃、
軒端の
庇あれたれども、月さすたよりとなるにはあらで
出口の
柳を
振向いて
見ると、
間もなく、
俥は、
御神燈を
軒に
掛けた、
格子づくりの
家居の
並んだ
中を、
常磐樹の
影透いて、
颯と
紅を
流したやうな
式臺へ
着いた。
明山閣である。
田畑は
七八荒れたきままにすさみて、
旧の道もわからず、
七九ありつる
人居もなし。