餘念よねん)” の例文
新字:余念
言葉ことばやさしく愛兒あいじ房々ふさ/″\せる頭髮かみのけたまのやうなるほゝをすりせて、餘念よねんもなく物語ものがたる、これが夫人ふじんめには、唯一ゆいいつなぐさみであらう。
「おほせまでもさふらはず、江戸表えどおもてにて將軍しやうぐん御手飼おてがひ鳥籠とりかごたりとも此上このうへなんとかつかまつらむ、日本一につぽんいちにてさふらふ。」と餘念よねんていなり。
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あるがなかにも薄色綸子うすいろりんず被布ひふすがたを小波さヾなみいけにうつして、緋鯉ひごひをやる弟君おとヽぎみともに、餘念よねんもなくをむしりて、自然しぜんみにむつましきさヽやきの浦山うらやましさ
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
しろはねにはとりが五六、がり/\とつめつちいてはくちばしでそこをつゝいてまたがり/\とつちいては餘念よねんもなく夕方ゆふがた飼料ゑさもとめつゝ田圃たんぼからはやしかへりつゝある。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
かけ用人無事に紀州表の取調とりしら行屆ゆきとゞき候樣丹誠たんせいこらし晝は一間に閉籠とぢこもりて佛菩薩ぶつぼさつ祈念きねんし別しては紀州の豐川とよかは稻荷いなり大明神だいみやうじん遙拜えうはいし晝夜の信心しんじんすこしも餘念よねんなかりしにかゝる處へ伊豆守殿より使者ししや
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
餘念よねんなき手にもまれて
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
餘念よねんもなくたわむれてるので、わたくし一人ひとり室内しつない閉籠とぢこもつて、今朝けさ大佐たいさから依頼いらいされた、ある航海學かうかいがくほん飜譯ほんやくにかゝつて一日いちにちくらしてしまつた。
床几しやうぎしたたはらけるに、いぬ一匹いつぴき其日そのひあさよりゆるもののよしやつしよくづきましたとて、老年としより餘念よねんもなげなり。
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
まへおもりがすぎるからいけないかく手紙てがみをやつて御覽ごらんげんさんも可愛かあいさうだわなとひながらおりきれば烟管掃除きせるそうじ餘念よねんのなきは俯向うつむきたるまゝものいはず。
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
勘次かんじつかれた身體からだ餘念よねんなく使役しえきした。は三にんそらいたゞいてせまむしろあかすのには、わづかでもその身體からだあたゝめる消滅せうめつしてたのである。三にんそのみなみいへみちびかれた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
春枝夫人はるえふじんもいと晴々はれ/″\しき顏色がんしよくで、そよ/\とみなみかぜびんのほつれはらはせながら餘念よねんもなく海上かいじやうながめてる。
氣分きぶんすぐれてよきとき三歳兒みつごのやうに父母ちゝはゝひざねぶるか、白紙はくしつて姉樣あねさまのおつくり餘念よねんなく、ものへばにこ/\と打笑うちゑみてたゞはい/\と意味いみもなき返事へんじをする温順おとなしさも
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
かれ次第しだいふところ工合ぐあひけたので、いまではいきほひづいた唐鍬たうぐはの一うちは一うち自分じぶんたくはへをんで理由わけなので、かれ餘念よねんもなくきはめて愉快ゆくわい仕事しごとしたがつてるやうにつたのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
なにみねたかと安兵衛やすべゑ起上おきあがれば、女房つま内職ないしよく仕立物したてもの餘念よねんなかりしをやめて、まあ/\れはめづらしいとらぬばかりによろばれ、れば六でうに一けん戸棚とだなたゞ一つ
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ぢやうさまがたはには追羽子おひはご餘念よねんなく、小僧こざうどのはまだお使つかひよりかへらず、おはりは二かいにてしかもつんぼなれば子細しさいなし、若旦那わかだんなはとればお居間いま炬燵こたついまゆめ眞最中まつたゞなかおがみまするかみさまほとけさま
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)