かしこ)” の例文
「シツ。——立ち聽きしてゐる奴があるんだ。かしこいやうでも、影法師が板圍ひの隙間をチラチラ隱すことには氣がつかなかつたらう」
かの子 い調和とかしこい素直さと皓潔な放胆で適宜てきぎに生きるというほどいつの時代にだって新鮮な生き方はなかろうと思いますわ。
新時代女性問答 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
准后の廉子やすこにしろ、かしこすぎるくらいな女性だ。文観の宗旨しゅうしがたんなる邪教や愚昧ぐまいな説法にすぎぬなら、それにたばかられるはずはない。
わがはらからは皆かしこくおとなしかりしにわれ一人父母ちゝはゝの良き教にそむく事多かりしが、しかも我が父はわが罪を一度も責め給ひし事なし。
みん仕方しかたなしに一しよたんだ』と海龜うみがめひました、『どんなかしこさかなでも、海豚いるかれなくては何處どこへもけやしないもの』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
木の上にんでいた大蛇おろちが、夜中よなかに、りょうしをのもうとおもって出てたのを、かしこいぬつけて、主人しゅじんこしてたすけようとしたのです。
忠義な犬 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
社会主義者みたいな、長い頭髪と、かしこそうな、小さいがよくえた眼の川村が、急に、小さく小さくあわれっぽくなったように思われて来た。
(新字新仮名) / 徳永直(著)
山奥の児童こどもにも似合わないかしこいことを考え出して、既にかつてえられぬ虐遇ぎゃくぐうこうむった時、夢中になって走り出したのである。
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
最も愚鈍ぐどんなるもの最もかしこきものなり、という白いくいが立っている。これより赤道に至る八千六百ベスターというような標もあちこちにある。
風野又三郎 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「いや/\其處そこにて煙草たばここゝろ長閑のどかはなせよかし」と人弱ひとよわらせの御慰おなぐさみかしこくはえたまへどいま御幼年ごえうねんにましましけり。
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
きつねひました。きつね調戯からかふつもりでわざと桃林和尚たうりんをしやう機嫌きげんるやうにしましたが、かしこ和尚をしやうさんはなか/\そのりませんでした。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
豊雄、はじめより都人のあてなる御方とは見奉るこそ一一一かしこかりき。一一二鯨よる浜に生立おひたちし身の、かくうれしきこと一一三いつかは聞ゆべき。
らしをたてていくことができるように、かしこくて、まじめで、しかもほがらかで、勤勉きんべんで、役にたつスモーランド人を、おつくりになったのさ。
気持きもちがいいだって! まあおまえさんでもちがったのかい、たれよりもかしこいここのねこさんにでも、女御主人おんなごしゅじんにでもいてごらんよ、みずなかおよいだり
今どきの少年は馬肉は軽蔑して食わぬし、ビステキなども上等のを食いたがるけれども、馬肉を食わぬからといって皆かしこくなるというわけではない。
三筋町界隈 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
「そら仕樣がおまへんがな。字を覺えてかしこなるんやもん。」と、重吉は鉈豆の煙管の詰まつたのを穿ほじりながら言つた。
太政官 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
爾来じらい邪心じゃしんを抱く者共は彼の住居の十町四方はけてまわり道をし、かしこい渡り鳥共は彼の家の上空を通らなくなった。
名人伝 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「あなたをお教へして、今にかしこい方にして下さる方のお側へいらして、お話なさいましな。」彼女は近よつて來た。
「あなたはきっとかしこい奥さんに——優しいお母さんにおなりなさるでしょう。ではお嬢さん、さようなら。わたしの降りる所へ来ましたから。では——」
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
うつくしうて、かしこうて、わしおもじにさするほど賢過かしこすぎた美人びじんゆゑ、おそらくは冥利みゃうりき、よもや天國てんごくへはのぼれまい。
『あなたは前よりもかしこくなりましたね、マイダス王、』と見知らぬ人は、真面目な顔になって言いました。
よくわたしは、父のかしこそうな、美しい、みきった顔を、じっと見ているうちに……胸がどきどきしてきて、身も心も父の方へ吸い寄せられるような気がした。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
さあ、つかまつて了つて、其処そこ場図ばつにげるには迯られず、阿母おつかさんはたりかしこしなんでせう、一処に行け行けとやかましく言ふし、那奴は何でも来いと云つて放さない。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
少なくとも赦文しゃもんの意味を文字どおりに行使こうしするのが最もかしこいことがわしにはっきりしているほどには。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
かしこさもその前には愚かなるに過ぎぬ。「それ智慧多ければ憂い多し」と『伝道の書』には嘆じてある。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
たべよ/\手前は一番利口者オヽかしこい奴だサア遠慮ゑんりよせずにたべよ/\と申さるゝに其處そこは子供ゆゑ菓子くわし
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そんなふうに、彼はすっかりあまやかされてだめになるところだった。しかしさいわいなことに、彼はまれつきかしこ性質せいしつだったので、ある一人の男のよい影響えいきょうをうけてすくわれた。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
天皇は百済くだらの王に向かって、おまえのところにかしこい人があるならばよこすようにとおおせになりました。王はそれでさっそく和邇吉師わにきしという学者をよこしてまいりました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
議員さんのなかにかしこい老人が一人あって、それなら、裁判長さいばんちょうが、片手かたてにみごとな赤いりんごを、片手にライン地方で通用する一グルデン銀貨をつかんで、子どもを呼びよせて
「とにかくあの人達ひとたち仕方しかたかしこかつた。」かれ時々とき/″\おもつた。大久保おほくぼのやうな稚気ちきおほ狂人きちがひ相手取あいてどることに、なん意味いみのあらうはずもなかつた。(大正14年7月「婦人の国」)
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
手短てみじかに云うと、自分は暗い所へ行く気でいるんだが、実のところはやむを得ず行くんで、何か引っかかりが出来れば、たりかしこしと普通の娑婆しゃばに留まる了簡なんだろうと思われる。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
むしなかでもばつたはかしこむしでした。このごろは、がな一にちつきのよいばんなどは、そのつきほしのひかりをたよりに夜露よつゆのとつぷりをりる夜闌よふけまで、母娘おやこでせつせとはたつてゐました。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
想うことは最も自由であり、また最も楽しい事である。また最もかしこく優れた事である。想うという能力にって人は理解もし、設計もし、創造もし、批判もし、反省もし、統一もする。
婦人と思想 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
かしこそうに言っている。山城守は、一おうもっともというようにうなずいたのち
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
なぜなら、どんな高いところへあがっても平気なほどしっかりした気象きしょうでしたから、一番つよかったのですし、またちゃんとみちをこしらえておくほど用心深ようじんぶかかったから、一番かしこいのでした。
強い賢い王様の話 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
かくていんの願ひにはあらねど、さすが人並ひとなみかしこく悟りたるものを、さらでも尚とやせんかくやすらんのまどひ、はては神にすがらん力もなくて、人とも多くは言はじな、語らじなと思へば
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
章太郎君は小学校の六年生でしたが、その日、学校へ行くと、竹内たけうち君というクラスの友だちに、透明人間のことを、そっと話しました。竹内君は少年探偵団にはいっているかしこい少年だったからです。
おれは二十面相だ (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
かしこそうなお母さんが出て来て、まああがれ、まあ上れと進めた。
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
とご長男照正様はたりかしこしで、顔をしかめてみせた。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
かしこい女がいると聞き
さうも行かない——かうしよう。家にゴロゴロして居る八五郎、大してかしこい人間ぢやないが、その代り毒のない、話の面白い男だ。それを
さればこそいにしへのかしこき人は、もとめてやうあればもとめ、益なくばもとめず、おのがこのむまにまに世を山林にのがれて、しづかに一生を終る。
「さあではご案内を致しましょう。」狐の校長さんはかしこそうに口をとがらして笑いながら椅子いすから立ちあがりました。私はそれについてへやを出ました。
茨海小学校 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
私はほんたうにおかしこい方と申上げていゝと思つてをります。尤も私はさうお話しいたした事もございませんけれど。
無智に似てどこかふつうの女以上のするどいかしこさもあるこの婦人は、とっさにある事態をもう直感した容子だった。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「もし力があって、かしこいかたが、この悲惨ひさんなありさまをごらんになれば、キツネどもがばつをうけないうちは、じっとしてはいらっしゃれないでしょう。」
「けれども四郎さ。あんたが私をお嫁に貰うには、もっと立派なかしこい人にならないじゃ——ねえ、わかって」
みちのく (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
歩兵ほへいたりかしこしと、『わたし何時迄いつまで何時迄いつまでも、毎日々々まいにちまいにち此處こゝすわつてればいンだ』と繰返くりかへしました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
けつしてわるくいふのではない、こゑはどうでも、商賣しやうばいみちによつてかしこくなつたので、この初夏しよかも、二人ふたりづれ、苗賣なへうり一組ひとくみが、下六番町しもろくばんちやうとほつて、かど有馬家ありまけ黒塀くろべい
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
太子たいしのおきさき膳臣かしわできみといって、それはたいそうかしこくておうつくしいかたでしたから、御夫婦ごふうふのおなかもおむつましゅうございました。あるときふと太子たいしはおきさきかって
夢殿 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)