むなし)” の例文
腰弱き彼等のくみするに足らざるを憤れる蒲田は、宝の山にりながら手をむなしうする無念さに、貫一が手も折れよとばかり捩上ねぢあぐれば
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
たちま衣嚢かくしを探りて先刻のコロップを取出しあたかも初めて胡桃くるみを得たる小猿が其の剥方むきかたを知ずしてむなしく指先にてひねり廻す如くに其栓を
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
万象眠る夜の床 人にはれし人の子の 天地をうらむ力さへ 涙と共にれはてて むなしく急ぐ滅亡を 如何に見玉ふ我神よ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
荏苒日をむなしくすべからずなどと言つて豪雨の最中おでん屋へ駈けつけてゐるほどだから、その翌日には早速手紙の執筆にとりかかつたに相違ない。
盗まれた手紙の話 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
いわんやその国に一個の首領しゅりょうを立て、これを君としてあおぎこれを主としてつかえ、その君主のために衆人しゅうじんの生命財産をむなしうするがごときにおいてをや。
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
されば三月の末にいたれば我さきにと此垣を作る事なり。さて又雪中は馬足ばそくもたゝず耕作かうさくもせざれば、馬はむなしうまやにあそばせおく事およそ百日あまり也。
なお先輩の命題をむなしうせざらんがために「万国公法」の字を存してこの書の一名とする旨を附記せられたのである。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
本編雪のほかの事をのせたるは雪譜せつふの名をむなしうするにたれども、しばらくしるして好事かうず話柄わへいす。増修そうしうせつまたしかり。
ああ此時に在りて誤りてむなしく床上に在て只平臥する事あらば、或は心身共に衰弱するに至るべきなり。
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
むなし圯橋いけうかせるところあり。又少く行烏川を渡る。川広一町余、あさし。砂石底を見るべし。時正に未後びご。西方の秩父山にはかにくもりて、暗雲蔽掩へいえんし疾電いるがごとし。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
手をむなしうしてこの母は下まで降りて改めて門番の所へ行って見ると此の日は門番の娘が母親の代りに勤めていたが、終日ルイズの姿を見なかったという答をしたのである。
所謂いはゆる眼光紙背にとほる者、書を読む、斯の如くにして始めて書をかすべし。天下の書は何人も自由に読むを得べし。然れども読者の多くは宝の山に入れども手をむなしうして還れり。
明治文学史 (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
己れをわすれて世を遺るゝを知る。己をむなしうして世を空うするを知る、誰れか己れを厭ふ事を知らずして真の厭世家となり、己れを罵ることを知らずして真の罵世家となるを得んや。
記念かたみとして上げるとわざわざ云って来たものを、快よく貰い受ける勇気の出ないのは、ひとの好意をむなしくする点において、面白くないにきまっているが、これとても苦になるほどではない。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかるにお三ばゝ母子おやこ若君わかぎみ誕生ありしにはじめて安堵あんどの思ひをなせしが老少らうせう不定ふぢやうの世のならひ喜こぶ甲斐かひもあらかなしや誕生たんじやうの若君は其夜そのよの七ツ時頃むしの氣にてつひむなしくなり給ひぬはゝ澤の井斯と聞より力を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
一世をむなしうする英雄であったが、慶喜に一切を任せられるに及び、大久保一翁、山岡鐡舟などと、東奔西走心胆を砕き、一方旗本の暴挙を訓め、他方官軍の江戸攻撃をい止めようと努力した。
大捕物仙人壺 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
間といふ間をむなしくめぐり來ぬ。ラオコオンの群の前をもいたづらに過ぎぬ。
さういふ気持になるには、己をむなしうせねばならない。
詩壇への抱負 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
その人達はやがて皆な手をむなしうして帰つて来た。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
城に近いのはむなしき煙だ、と言伝える。
われむなしふしてひと
寡婦の除夜 (新字旧仮名) / 内村鑑三(著)
身をも心をも打委うちまかせていつはることを知らざりし恋人の、忽ち敵の如くおのれそむきて、むなしく他人に嫁するを見たる貫一が心は更に如何いかなりけん。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
されば三月の末にいたれば我さきにと此垣を作る事なり。さて又雪中は馬足ばそくもたゝず耕作かうさくもせざれば、馬はむなしうまやにあそばせおく事およそ百日あまり也。
同君はその心をむなしうして委員全体の批評を待ち、反対論を容るるには毫もやぶさかならずというが如き態度であった。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
数年すねん勉強の結果をむなしうして生涯二度の艱難辛苦かんなんしんくと思いしは大間違おおまちがいの話で、実際を見れば蘭と云い英と云うも等しく横文にして、その文法もほぼあい同じければ
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
遺物だと云っても、物はもう亡くなって、只むなしき名が残っているに過ぎない。
百物語 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
此儘にてむなしく沈欝に陥る時は、或は如何に転変するに至らん乎と、自らも此れを案じ、餘作も共に慰めくれて、此際には精神上一大変化を実行して、此難関を一掃すべきの大奮励を要すべきを悟り
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
尋ねしかど未だ天運てんうんさだまらざるにや一向に手懸りさへもなくむなしく其年もくれて明れば享保五年となり春も中旬なかば過て彌生やよひの始となり日和ひより長閑のどかに打續き上野飛鳥山あすかやま或ひは隅田川すみだがはなどの櫻見物さくらけんぶつに人々の群集ぐんじゆしければ今ぞかたき
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ああ、こんな思を為るくらゐなら、いつそ潔く死んだ方がはるかましだ。死んでさへ了へば万慮むなしくこの苦艱くげんは無いのだ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
本編雪のほかの事をのせたるは雪譜せつふの名をむなしうするにたれども、しばらくしるして好事かうず話柄わへいす。増修そうしうせつまたしかり。
けで次第々々に昇級すれば、ほとんど塾中の原書を読尽よみつくして云わば手をむなしうするような事になる、その時には何かむずかしいものはないかと云うので
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
さててきしくすりなどふくして、木村氏のもとにありしが、いつまでも手をむなしくしてあるべきにあらねば、月給八円の雇吏やといとしぬ。その頃より六郎酒色しゅしょくふけりて、木村氏に借銭しゃくせん払わすること屡々しばしばなり。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
或はむなしく悲歎して世を恨み人を怨むものあり。
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
むすび藤井左京ふぢゐさきやうと云者あり此頃藤が原へ尋ね來り暫く食客となりて居たりしが時は享保十一午年うまどし正月五日の事なりし朝より大雪おほゆき降出ふりいでしが藤井左京は大膳に向ひそれが去冬きよとうより此山寨このさんさいへ參り未だ寸功すんこうもなくむなしくらすも殘念ざんねんなり我も貴殿の門下となりし手始めに今日の雪を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
かつは先人の千辛万苦せんしんばんくして我々後進の為めにせられたる其偉業鴻恩こうおんむなしふするものなり、就ては方今の騒乱中に此書を出版したりとて見る者もなかる可しといえど
蘭学事始再版序 (新字旧仮名) / 福沢諭吉(著)
これいかんとなれば縮を一たんになすまでに人のらうする事かぞへつくしがたし。なか/\手間てま賃銭ちんせんあて算量つもる事にはあらず、雪中に籠居こもりをる婦女等ふぢよらむなしくせざるのみの活業いとなみ也。
これまたその功名のあたいを損ずるところのものにして、要するに二氏の富貴こそその身の功名をむなしうするの媒介ばいかいなれば、今なおおそからず、二氏共に断然だんぜん世をのがれて維新いしん以来の非をあらた
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)