死骸しがい)” の例文
かんがへてりやあ生身なまみをぐつ/\煮着につけたのだ、尾頭をかしらのあるものの死骸しがいだとおもふと、氣味きみわるくツてべられねえツて、左樣さういふんだ。
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
弾丸たまを打ちつくした彼らの銃がもはや棒切れにすぎなくなった時、うずたかい死骸しがいの数がもはや生き残った集団よりも多くなった時
春子はるこさんが、ってみると、それは、うつくしい、べにざらをるように、むらさきのぴかぴかとしたはねった玉虫たまむし死骸しがいでありました。
玉虫のおばさん (新字新仮名) / 小川未明(著)
前の洞穴ほらあなの内部の隅。岩の壁によりかかった赤児の死骸しがいは次第に又変りはじめ、とうとうちゃんと肩車をした二匹の猿になってしまう。
誘惑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
は母のふところにあり、母の袖かしらおほひたればに雪をばふれざるゆゑにや凍死こゞえしなず、両親ふたおや死骸しがいの中にて又こゑをあげてなきけり。
「だって三沢がたった一人でその娘さんの死骸しがいそばにいるはずがないと思いますがね。もし誰もそばにいない時接吻せっぷんしたとすると」
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
え? だってあの女は(と彼は死骸しがいのある方を指さした)、どこかの金貸ばばあみたいに、『しらみ』だったわけじゃありませんからね。
ア! 非人ひにんがきたぞ非人が、三ツの死骸しがいをかたづけるんだな。やあいけねえ、伊那丸いなまるの首を河原かわらほうへ持っていってしまやがった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
水道道路のガード近くのくさむらに、白い小犬の死骸しがいがころがっていた。春さきのを受けて安らかにのびのびとねむっているような恰好かっこうだった。
永遠のみどり (新字新仮名) / 原民喜(著)
天主台の上に出て、石垣いしがきの端から下をのぞいて行くうちに、北の最も高いかどの真下に六蔵の死骸しがいが落ちているのを発見しました。
春の鳥 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
立ち上がると、そのまま振り向きもしないで、立ち去った彼のあとに、グッタリと横たわっているのは、可哀かわいそうな犬の死骸しがいだ。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「あゝそれぢやあいけない、五合以上喰べさしちやならないのだ。犬は可哀さうなことをした。どれ、では死骸しがいでも葬つてやりませう。」
竜宮の犬 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
その日自分は感冒で発熱して寝ていたが、その死骸しがいをわざわざ見る気がしなかったから、ただそのままに裏の桃の木の根方に埋めさせた。
備忘録 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ひらかれけるさて平石ひらいし次右衞門吉田三五郎の兩人より越前守へ言上いひあげ彼若君かのわかぎみ澤の井の死骸しがいはうむりし光照寺へ永代佛供料えいたいぶつくれうとして十八石の御朱印ごしゆいん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
今朝懇意こんいの車屋がデカの死骸しがいを連れて来た。死骸は冷たくなって、少し眼をあいて居たが、一点の血痕けっこんもなく、唯鼻先はなさきに土がついて居た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
おつぎはそれからまたいて與吉よきち死骸しがいごとよこたはつて卯平うへいとをた。おつぎは萬能まんのういて與吉よきち火傷やけどした頭部とうぶをそつといだいた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
その晩棒頭が一人つき添って土方二人が源吉の死骸しがいをかついで山へ行った。穴をほってうずめた。月夜で十勝岳が昼よりもハッキリ見えた。
人を殺す犬 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
「なーに、伝染病だっていうもんですから、あそこの娘が出して寄越した襤褸もなにも見ずに、はあ死骸しがいと一緒に焼いてしまったんでさあ」
或る嬰児殺しの動機 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
翌朝、村へ帰ると親爺は逃げおくれて、家畜小屋の前で死骸しがいとなっていた。胸から背にまでぐさりと銃剣を突きさされていた。
パルチザン・ウォルコフ (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
大したことぢやありませんがね。先刻さつき、浪人大澤傳右衞門の、あの綺麗な娘——お頼さんが、そつと鍵屋へやつて來て、手代喜三郎の死骸しがい
一年間も何もべずにゐたのだから、虫が死ぬのは当りまへだと思つて、武士は虱の死骸しがいを掌にのせた。そしてじつと眺めた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
みちのまん中の勘の死骸しがいをとりまいているので、周囲のほうは稀薄きはくになりつつある、そのまばらなところを縫って、ずんずん行ってしまった。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
大抵四千円までは僧侶の「ゲ」及び燈明代とうみょうだいに供えて、他の一千円をもってその人の死骸しがいを送り、あるいは跡始末あとしまつを付けるという位のもので
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
おやたれれば子がすすみ、子がたれればおやがつづくというふうに、味方みかた死骸しがいえ、え、どこまでも、どこまでもすすんでます。
田村将軍 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
私も戦争がやんだというので早速出掛けて行きましたが、二つ三つ無惨な死骸しがいを見ると、もういやな気がして引っ返しました。
じろじろ目を光らして丹念に死骸しがいを見ながめていたようでしたが、と——とつぜん、くすりと笑いだすと不意にいいました。
殺してその隣室へ死骸しがいを運び、窓を開けてそこから街路上へ投げ、さらに窓を閉め、五階の社長室へ来て贋造紙幣を奪ったのに違いありません
はちはそれにとまつてしばらをつと氣配けはいうかゞつてゐるらしかつたが、それが身動みうごきもしないのをると、死骸しがいはなれてすぐちかくの地面ぢべたりた。
画家とセリセリス (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
何が腐りただれたかと薄気味悪くなって、二階の部屋へやから床板ゆかいたを引きへがして見ると、ねずみ死骸しがいが二つまでそこから出て来て
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
みんなはわれちに中をのぞきこんだ。顔をしかめる者、ぺっぺっとつばを吐く者。中には仔猫の死骸しがいが入っていた。それと赤い紐が一本……。
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「ああ、ユトリロ。まだ生きていやがるらしいね。アルコールの亡者もうじゃ死骸しがいだね。最近十年間のあいつの絵は、へんに俗っぽくて、みな駄目」
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
愉快ゆくわい々々、世界一せかいいち王樣わうさまだつて、此樣こん面白おもしろられるものでない。』と水兵すいへいども雀躍じやくやくした。日出雄少年ひでをせうねん猛狒ゴリラ死骸しがい流盻ながしめやりて
うまくランデブーすれば、雄蝉おすぜみ莞爾かんじとして死出しで旅路たびじへと急ぎ、あわれにも木から落ちて死骸しがいを地にさらし、ありとなる。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
長岡博士は碧海島から送られた『最上』の戦死者の死骸しがいをしらべて、フーラー毒ガスの正体をさぐり、その毒をふせぐ液をこしらえたのである。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
眼にこそ見えませんが、この世間には男性に弄ばれた女性の生きたむごたらしい死骸しがいが、幾つ転がっているかも分りません。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
まちではもういたところ、この死骸しがいのことと、下手人げしゅにんうわさばかり、イワン、デミトリチは自分じぶんころしたとおもわれはせぬかと、またしてもではなく
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
そこここに死骸しがいを収める西方らしい雑兵どもが急しげに往来するばかり、功徳池くどくいけと申す蓮池はすいけには敵味方の屍がまだ累々るいるいと浮いておりますし、鹿苑院ろくおんいん
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
さうすると円朝ゑんてうさん、その死骸しがいういふ潮時しほどきであつたか知らないが、流れ/\て塩原しほばらまへ桟橋さんばしへ着いたさうだ。
塩原多助旅日記 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
さいわい闇夜やみよにて人通ひとどおりなきこそ天のたすけと得念が死骸しがいを池の中へ蹴落けおとし、そつと同所を立去り戸田様とださま御屋敷前を通り過ぎ、麻布あざぶ今井谷いまいだに湖雲寺こうんじ門前にで申候処
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その若い病人も死人同様になっていましたがさすがに呼吸いきはあったのですから、昔の小説の殯殿ひんでんに置いた死骸しがい蘇生そせいしたという話を妹は思い出しまして
源氏物語:56 夢の浮橋 (新字新仮名) / 紫式部(著)
まるで、いまなかるやうにうへしたも、すつかりくさつてりますぞ。くさいもの身知みしらずとやら、この死骸しがいよりはいまなか全體ぜんたいはう臭氣しうきはひどい。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
それから老人や女は自殺し、幼いものはてんでに刺し殺した。それから庭に大きい穴を掘って死骸しがいを埋めた。あとに残ったのは究竟くっきょうの若者ばかりである。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
裸体で、いましめられ、寝かされ、身動きもできないでいる自分を、蛆虫うじむしのたかってる死骸しがいのような自分を、彼は見出した。彼はむらむらと反発心を覚えた。
(砂の上に血のあとを見つける)おゝ。(血の痕をたどり、岩の上によじ、俊寛の死骸しがいを見つける)おゝご主人様。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
男たちは今更いまさらなんとも返事ができず、嵐がしずまったら死骸しがいを探しにゆこうかと、その支度したくをしはじめました。
負けない少年 (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
そこに木の枝が水の上にかぶさって、一層うす暗くなっていたがこずえをとおす陽の光がかすかに射していた。その水のなかに母の死骸しがいは浮いていたのである。
抱茗荷の説 (新字新仮名) / 山本禾太郎(著)
そしてその雪と月のあかりで見るといちばん高いとこに小十郎の死骸しがいが半分座ったようになって置かれていた。
なめとこ山の熊 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
きみにポンペーのことを話してあげたことがありますが、あれはいきいきとした都市がたくさんならんでいる中で、さらしものにされている都市の死骸しがいです。
「だがまア、行くだけは行くだ。行って見てだれも来てなかったら帰るのよ。掘ってみましたが何、やっぱり犬の死骸しがいでしたっていやアすむんだからな。」
与右衛門はそうして累を殺し、あやまって河に落ちて死んだと云って、その死骸しがいを背負うて家に帰り、隣の人の手を借りて旦那寺だんなでら法蔵寺ほうぞうじの墓地に埋葬した。
累物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)