)” の例文
なみだを目に一ぱいにしたかとみるまに、いてたわが子を邪険じゃけんにかきのけて、おいおい声を立ててきだすようなことがあるのである。
告げ人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
おみちは子供こどものようにうなずいた。嘉吉はまだくしゃくしゃいておどけたような顔をしたおみちをいてこっそり耳へささやいた。
十六日 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
けれども表向おもてむき兄の承諾を求めると、とうてい行われにくい用件が多いので、自分はつい機会おりを見ては母のふところに一人かれようとした。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
如何どうなったのだろう? 烏山の天狗犬てんぐいぬまれたのかも知れぬ。三毛みけは美しい小猫だったから、或は人にいて往かれたかも知れぬ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
陳は小銭こぜにを探りながら、女の指へあごを向けた。そこにはすでに二年前から、延べのきん両端りょうはしかせた、約婚の指環がはまっている。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
これは統計の明らかに示す所である。文字に親しむようになってから、女をいても一向楽しゅうなくなったといううったえもあった。
文字禍 (新字新仮名) / 中島敦(著)
いまあはたゞしくつた。青年わかもの矢庭やにはうなじき、ひざなりにむかふへ捻廻ねぢまはすやうにして、むねまへひねつて、押仰向おしあふむけたをんなかほ
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
こういって、かお見合みあわせて、にっこりしました。このとき、あちらからきみさんが、さっきのねこをいてやってきました。
僕たちは愛するけれど (新字新仮名) / 小川未明(著)
おじいさんがわざと、「あそこに。」といって、こうにんであるしばをゆびさしますと、山姥やまうばはいきなりそのしばにきつきました。
山姥の話 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
自分じぶん蒲團ふとんそばまでさそされたやうに、雨戸あまど閾際しきゐぎはまで與吉よきちいてはたふしてたり、くすぐつてたりしてさわがした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
夕日ゆふひは低く惱ましく、わかれの光悲しげに、河岸かし左右さいうのセエヌがはかは一杯いつぱいきしめて、むせんでそゝさゞなみに熱い動悸どうきを見せてゐる。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
でふたりは、いいつけられた仮面めんをかぶり、あたえられた独楽こまをかたくいて、おく部屋へやに、今夜だけはなかよく寝こんでしまった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
末男すゑを子供こどもきながら、まちと一しよ銀座ぎんざあかるい飾窓かざりまどまへつて、ほしえる蒼空あをそらに、すきとほるやうにえるやなぎつめた。
追憶 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
「げに月日経つことの早さよ、源叔父。ゆり殿が赤児きて磯辺に立てるをしは、われには昨日きのうのようなる心地す」老婦おうなは嘆息つきて
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
康頼 (成経をきとめる)成経殿。軽はずみをしてあとでいないために! あなたは敵をほうるようにして友をころす気か!
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
蒲団ふとんも何もない、赤い半切れの毛布を持っていて、それを頭にすっぽり乗っけると、「八」をいて寝るのが習慣ならわしであった。
戦争雑記 (新字新仮名) / 徳永直(著)
「ひどいよ、まるでわたしが人間じゃないみたいにさ、ええ? そのくせ、いざっこしてみたところが、やっぱしへとへとになったってね」
そして、フラフラと窓のところへ行くと、外から虎が二本の前足で、花田君を、きかかえるように、むかえてくれました。
虎の牙 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「近所の子供が見付けて大騷ぎになつたんです。綾瀬川寄りの三尺ほどの流れの岸で、釣竿つりざをいたまゝ死んでゐるのです」
たがいの胸に思うことをいていながら、それを押し隠して美しく附き合っている、それがすでに他人行儀ではあるまいか。
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
愛人にかれるために行ったのでしょうか? 月の光は人間が書くものをさえ、ことごとく読んでいるわけではありません。
また松島まつしまでは、老母ろうぼ少女しようじよとがあはせてはうむつてありましたが、これはさだめし祖母そぼ孫娘まごむすめとが同時どうじ病死びようししたものをはうむつたものとおもはれます。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
エルンストは涙もろかったし、その場の効果に乗じないではおかなかった。そして皆が感情に駆られた。三人ともたがいにき合って泣いた。
彼女はすばやくわたしの方へ向き直って、両手を大きくひろげると、わたしの頭をきしめて、熱いキスをわたしにあたえた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
そして、このとき梅の花は、その中央に雌芯雄芯めしべおしべの色や、ふくらんだ褐色かっしょくつぼみと調和して、最も質朴しつぼくに見え、古典的クラシックな感じを与えるのです。
季節の植物帳 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
二人はぶるぶるふるえながら、しっかりとき合って、子供らしい言葉でたがいになぐさめ合うよりしかたがありませんでした。
神様の布団 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
とうさんの幼少ちひさ時分じぶんにはおうちにおひなといふをんな奉公ほうこうしてまして、半分はんぶん乳母うばのやうにとうさんをおぶつたりいたりしてれたことをおぼえてます。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
鏡子はふとトランクや鞄の鍵をどうしたかと云ふ疑ひをいて書斎へ行つた。そして赤地錦あかぢにしき紙入かみいれ違棚ちがひだなから出した中を調べて見たが見えない。
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
ただ一刹那のあいだではございましたけれど、あなたはただ手と手とが障ったばかりで、わたくしを裸体らたいにしておきあそばしたのでございますよ。
うわさたがわず素晴らしいその鉄砲乳が無性むしょうに気に入ったんだ。年寄だけが不足だろうが、さりとて何も、おめえをいて寝ようというわけじゃねえ。
歌麿懺悔:江戸名人伝 (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
にんじんは、さっきまで、この鉄砲を、それこそ、胸にめていた。突然、彼はそれを失った。ところが、今また、それが彼の手に戻ってきた。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
水中へ飛び込んで、き上げない人夫も、人夫である。まった日給で働いている人夫だ、そうした義侠的ぎきょうてき行動をしないのも無理のない話ではあるが。
死者を嗤う (新字新仮名) / 菊池寛(著)
わざと五つの女の子をひざの上にき寄せて、若い妻は上向いていた。実家へ帰る肚を決めていた事で、わずかにさけび出すのをこらえているようだった。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
あのまま肩へ手をかけて肉をがすようにすと胸のき肉と称する処がともに離れて手の方へ着いて来ます。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
キチガイのようにれ狂い、さけぶアヤ子を、両腕にシッカリとかかえて、身体からだ中血だらけになって、やっとの思いで、小舎こやの処へ帰って来ました。
瓶詰地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
にはなる美登利みどりはさしのぞいて、ゑゝ不器用ぶきようんなつきしてうなるものぞ、紙縷こより婆々縷ばゝよりわらしべなんぞ前壺まへつぼかせたとてながもちのすることでは
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
さもないと、自殺にめられて、慰藉金ゐしやきんも貰へない上に、理窟の立たない厭世観さへかされるやうな事になる。
そして、かさかさのにぎりこぶしでつまねをしましたが、そんなことは目にはいらず、病人をきおこすと、せんに足のあったほうへあたまを置きかえました。
一首の意は、真麻むらの麻の束をきかかえるように(序詞)可哀いお前を抱いて寝たが、飽きるということがない、どうしたらいいのか、というのである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
或いは誰かにこされ、または室よりいださるることもあり。およそ静かに眠ることを許さぬなり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
壺をいて死んだら、この世に思いが残るだろう。生も死もどうでもいいと、さらりと思いあきらめていたが、壺が手に入ったら、急に死ぬのがいやになった。
呂宋の壺 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
まだきあっていて、余計、たまらなく、飛びだそうとした刹那せつな、ふいに、その若い二人が、ゆめの中のあなたとぼくのように、錯覚さっかくされ、もう一度、振りかえり
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
ただ、不憫がますばかりだったし、与平に一眼だけ見せたくてたまらなかった。どこかへ貰われてゆく前に、一眼だけ、与平に見せていてもらいたかったのだ。
河沙魚 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
そうじてうちつゝむはほかほまれ、金玉きんぎょく物語ものがたりきん鈎子はさみがねかすれば、にも立派りっぱ寶物たからもの
何も知らずにいても好い。ただその時は、おれかれて、今のように寐入ねいって、それからもうめないばかりだ。そしてそれをたしかめた上で、自分がるのだ。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
と、うなってみたが、もうだめである。何者とも知らず、二三人の大人があつまってきて、丁坊のからだをかるがるとき上げた。そして丁坊をどこかへ連れてゆく。
大空魔艦 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と、その時案内の車夫は、橋の欄干らんかんから川上の方をゆびさして、旅客のつえをとどめさせる。かつて私の母も橋の中央にくるまを止めて、頑是がんぜない私をひざの上にきながら
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
と正三君はあやまりながらきおこした。照彦てるひこ様は刺繍台ししゅうだいをつぶしたことに気がつくと、正三君を突きのけて逃げていった。ご丹精たんせい芙蓉ふよう落花狼藉らっかろうぜきになっている。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
ほんに思えばあのうれしさの影をこの胸にぴったりき寄せるべきであったろうに。あの苦労の影をく味ったら、そのうちからどれ程嬉しさがいたやら知れなんだ物を。
そして、自転車が正門を出て見えなくなると、急にがくりと首をたれ、両腕で本の幹をいた。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)