はゞ)” の例文
今日は御葬り下され御回向ゑかうあづかりしことの有難く御かげにて未來みらいを助かりますによりはゞかりながら是より其報恩はうおんに御前樣の蔭身かげみに添て何卒御立身出世りつしんしゆつせ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「同志も世間をはゞかつて來ず、一人ではあの床板を破つて、見張りの浪人を押へ、鐵三郎樣を救ひ出す工夫がなかつたのだ、それでは頼むぞ、平次殿」
女房たちは勿論もちろんそれに気が付いていたのであるが、今の場合北の方にはゞかって、此の優男やさおとこの噂をするのを差控えながら、心の中では左大臣と比較して
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
代助はぼんやりかべを見詰めてゐた。門野かどのをもう一返んで、三千代が又くる時間を、云ひ置いて行つたかうか尋ねやうと思つたが、あまり愚だからはゞかつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
飯「黙れ孝助、主人の前もはゞからず大声おおごえを発してしからぬ奴、覚えがなければうして胴巻が貴様の文庫のうちに有ったか、それを申せ、何うして胴巻があった」
よし一時いちじ陸奧みちのく名取川なとりがはきよからぬながしてもし、はゞかりのなか打割うちわりてれば、天縁てんえんれにつて此處こヽはこびしかもれず、いまこそ一寒いつかん書生しよせいもなけれど
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
手紙のしるす所を見るに、壽阿彌が火事につて丸燒になつた時、水戸家は十分の保護はうごを加へたらしい。それゆゑ壽阿彌は再び火事に遭つて、重ねて救を水戸家に仰ぐことをはゞかつたのである。
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
きてたやうにおもはれて、一寸ちよいとさはるのもはゞかられる。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
元は水茶屋に奉公してゐたお靜ですが、さすがに夫の留守に、子分の酒のしやくまでしてやるのをはゞかつたのでせう。
ながらへ御とがめの身分をはゞからずおして此段御屋形樣へ言上ごんじやう仕り候此儀御用ひなき時は是非に及ばず私し儀は含状ふくみじやう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
でせう、ね」と代助に謝罪する様に云つて、すぐ又立つてつぎつた。さうして、なかはゞかる様に、記念の指環をそこ/\に用簟笥に仕舞つてもとの坐に戻つた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
素人しろうとにしててゝくはしいものなかくわへぬ、さりとておてらむすめひだづま、お釋迦しやか三味しやみひくらずひときこすこしははゞかられて、田町たまちとほりに葉茶屋はぢやゝみせ奇麗きれいにしつらへ
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
何んとかの守にならうとした八十郎の野心のたくましさや、繼子の孝行を吹聽し乍ら、はゞかり恐るゝ色もないお禮の無反省が、平次の心持をフト暗くしてしまひます。
ひるには、宜道ぎだうからはなしのあつた居士こじつた。この居士こじ茶碗ちやわんして、宜道ぎだうめしよそつてもらふとき、はゞかりさまともなんともはずに、たゞ合掌がつしやうしてれいべたり、相圖あひづをしたりした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
おくさまとろ/\としてお目覺めさむれば、まくらもとのゑんがはに男女なんによはなこゑさのみはゞかる景色けしきく、此宿こゝ旦的だんつくの、奧洲おくしうのと、車宿くるまやどの二かいふやうなるは、おくさま此處こゝにとゆめにもひとおもはぬなるべし。
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
はゞからず推參仕り候おもむき若年の私承たまはらん事覺束なく存じ此段言上仕り候と申上らる中納言綱條卿きこめし深く驚かせ給ひ天下の一大事出來しゆつらいとは何事ならん夫は容易よういならざる事なるべし越前を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
お絹は詮方せんかたもない姿でさう言ふのでした。それは恐らく掛引のない言葉でせう。お絹の大きい眼が何んのはゞかる色もなく信頼しきつた樣子で、平次を見入るのです。
其晩そのばんかれ宗助そうすけと一時間じかんあまりも雜談ざつだんふけつた。かれ重々おも/\しいくちかた自分じぶんはゞかつて、おもれないやうはなし調子てうし、「しかるに」と口癖くちくせすべ平生へいぜいかれことなるてんはなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
よしりたりとも再縁さいゑんするひとさへにはおほし、何處どこはゞかりのあることならねばとて説諭せつゆせしに、おそのにこやかにわらひて口先くちさき約束やくそくくにとかれもせん、まことあいなきちぎりはてヽ再縁さいゑんするひとあるべし
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
純情家の八五郎は、まだそれを考へて居たのですが、さすがにはゞかつて、これ以上の事は言へません。
かれ何気なにげなく懐中物くわいちうものむねところけて、なかにある紙幣を、勘定もせずにつかんで、これげるから御使おつかひなさいと無雑作に三千代のまへした。三千代は、下女をはゞかる様な低い声で
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
さすがに本妻の里江と同じ屋根の下に入るのをはゞかつたか、自ら進んで渾天儀の番人になり度いと言ひ出し、離室はなれの塔の二階を整理させて、此處に住むことになつたのです。
翌日よくじつめて役所やくしよ生活せいくわつはじまると、宗助そうすけはもう小六ころくことかんがへるひまたなかつた。うちかへつて、のつそりしてゐるときですら、この問題もんだい確的はつきりまへゑがいてあきらかにそれをながめることはゞかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
誰にはゞかることがあるものか、お前はお豊さんと一緒になるが宜い。えのき長者の跡を取つたら、その代り、この金を生かして費へ、——ウ、フ、こいつはつまらねえ意見だ、貧乏人はこんな事を
四方あたりはゞかるやうな調子で、靜かに格子を叩く者があるのです。
「主人の重三郎が死んでしまつた上は、支配人の總兵衞さへ居なきや、お豐は勝手に振舞へるわけでせう。妹のお新は十八の小娘だし、あとは下男のモモンガアーの茂吉たつた一人。誰にはゞかる者もありやしません」