つとめ)” の例文
母は昔堅気むかしかたぎの教育を受けた婦人の常として、家名を揚げるのが子たるものの第一のつとめだというような考えを、何より先にいだいている。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
つぎ著意ちやくいしてみちもとめるひとがある。專念せんねんみちもとめて、萬事ばんじなげうつこともあれば、日々ひゞつとめおこたらずに、えずみちこゝろざしてゐることもある。
寒山拾得 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
汝の知らんと欲するは、はたされざりし誓ひをば人他のつとめによりてつぐのひ、魂をして論爭あらそひまぬがれしむるをうるやいなやといふ事是なり。 一三—一五
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
あなかしこ私などの知らぬこと願はぬことながら、私の、私どものこの国びととしてのつとめは、精一杯致しをり候つもり、先日××様仰せられ候
ひらきぶみ (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
しかれども机上きしやう編筆へんひつせはししば/\稿かうだつするの期約きやくうしなひしゆゑ、近日このごろつとめて老人が稿本かうほん残冊ざんさつていし、もつて其乞そのこひさづく。
しかれども机上きしやう編筆へんひつせはししば/\稿かうだつするの期約きやくうしなひしゆゑ、近日このごろつとめて老人が稿本かうほん残冊ざんさつていし、もつて其乞そのこひさづく。
老子らうし(一一)道徳だうとくをさむ、其學そのがくみづかかくしてきをもつつとめせり。しうることこれひさしうして、しうおとろふるをすなはつひつて、(一二)くわんいたる。
短遮ショルトストップは投者と第三基の中ほどにあり、打者の打ちたる球をさえぎり止め直ちに第一基に向って投ずるをつとめとす。
ベースボール (新字新仮名) / 正岡子規(著)
そのつとめが、今の雑用より楽だとは思えません。着るものなどは先生らしくさせられるかもしれませんが、それとてきっと女中の着るようなひどいものでしょう。
壁にも耳、徳利とくりにも口と、寸分すんぶん、間違いのないことを、法に照らして処断するのがつとめに御座りまする
大岡越前の独立 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
先ず自分から人たるのつとめを実行しておいて他人の事をも言ねばならん。実行の人は常に愉快の心をもっておられるが不実行の人は多く不平や怨嗟えんさの声を発するようだね。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
他人に不愉快を与えないように身じまいをすることは、西洋ではその日のつとめのようになっている。
独居雑感 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その満足まんぞくかおひと見下みさげるような様子ようすかれんで同僚どうりょうことばふか長靴ながぐつ此等これらみな気障きざでならなかったが、ことしゃくさわるのは、かれ治療ちりょうすることを自分じぶんつとめとして
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
精神的には導かれ守られる代りに、世俗的な煩労はんろう汚辱おじょくを一切おのが身に引受けること。僭越せんえつながらこれが自分のつとめだと思う。学も才も自分は後学の諸才人におとるかも知れぬ。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
闇太郎という声がなけりゃあ、役人衆に手貸しをして、つかめえるが、こっちらのつとめだろうが、あの呼びかけがあったので、わざと、聞えねえ振りをして、後も向なかったわけなのです
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
あひだには與吉よきち背負せおつてはやしなかあるいてたけ竿さをつくつたかぎ枯枝かれえだつては麁朶そだたばねるのがつとめであつた。おつぎは麥藁むぎわら田螺たにしのやうなかたちよぢれたかごつくつてそれを與吉よきちたせた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ブロクルハースト氏はその富と家族的關係との爲めに見落されないで矢張り會計係になつてゐたが、しかし彼はより寛大な同情心のある人々に助けられながら自分のつとめを遂行するのだつた。
之を慎しむは男子第一のつとめなる可し。又夫の教訓あらば其命に背く可らず、疑わしきことは夫に問うて其下知に従う可し、夫若し怒るときは恐れて之に従い、あらそうて其心に逆う可らずと言う。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
時に王既に今川了俊いまがわりょうしゅんの為に圧迫せられて衰勢に陥り、征西将軍の職を後村上帝ごむらかみていの皇子良成ながなり王に譲り、筑後ちくご矢部やべに閑居し、読経礼仏を事として、兵政のつとめをば執りたまわず、年代齟齬そごするに似たり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
第一のつとめゆえ、被告の申立を聞きましょう。さあ、おいい
報酬を求むる手段としてのつとめ
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
そがたのしきつとめはただ
一生のつとめ、今日の事
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そんなら世話をしてくれる人に頼んで、どこへでもいいから、つとめにでも出る気になればまだしも、そんな事にはまたまるで無頓着むとんじゃくであなた……
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
たとひ今にいたるまで彼につきていひたる事をみな一の讚美の中に含ましむとも、わがつとめを果すに足らじ 一六—一八
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
彼を承認して置いて、これを維持して行くのが、学者のつとめだと云うばかりではなく、人間の務だと思っている。
かのように (新字新仮名) / 森鴎外(著)
かれ半年はんとし無職むしよく徘徊うろ/\してたゞパンと、みづとで生命いのちつないでゐたのであるが、其後そのご裁判所さいばんしよ警吏けいりとなり、やまひもつのちしよくするまでは、こゝつとめつてゐたのであつた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
第一女子は家の内事をつかさどるのつとめあるが故に学事勉強のいとま少なし。
新女大学 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
飲む人のつとめとして、詩の句で説き明かして
践歴せんれき 功皆いちじるしく、諮詢しじゆん つとめ必ずす。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
勿論もちろんしよんでふかかんがへたら、みち到達たうたつせずにはゐられまい。しかしさうまでかんがへないでも、日々ひゞつとめだけはべんじてかれよう。これはまつた無頓著むとんちやくひとである。
寒山拾得 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
父は生来せいらい交際好こうさいずきの上に、職業上の必要から、だいぶ手広く諸方へ出入していた。おおやけつとめを退いた今日こんにちでもその惰性だか影響だかで、知合間しりあいかん往来おうらいは絶える間もなかった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かれ半年はんとし無職むしょく徘徊うろうろしてただパンと、みずとで生命いのちつないでいたのであるが、その裁判所さいばんしょ警吏けいりとなり、やまいもっのちにこのしょくするまでは、ここにつとめっていたのであった。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
かゝる秩序の中に、凡ての被造物は皆その目的めあてなる神を望めど、天與の位置に高低ありそのつとめまた皆異なれば、火や地球の如く神にいと遠きあり、また諸天使の如く神にいと近きあり
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
わたくしは番人のつとめを忘れました。
儒學じゆがくつても、道教だうけうつても、佛法ぶつぱふつても基督教クリストけうつてもおなことである。かうひとふか這入はひむと日々ひゞつとめすなはみちそのものになつてしまふ。
寒山拾得 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
あるときはこの自覚のために驕慢きょうまんの念を起して、当面のつとめおこたったり未来の計を忘れて、落ち付いている割に意気地いくじがなくなる恐れはあるが、成上なりあがりものの一生懸命に奮闘する時のように
『東洋美術図譜』 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
其滿足そのまんぞくかほひと見下みさげるやうな樣子やうすかれんで同僚どうれうことばふか長靴ながぐつ此等これらみな氣障きざでならなかつたが、ことしやくさはるのは、かれ治療ちれうすること自分じぶんつとめとして、眞面目まじめ治療ちれうをしてゐるつもりなのが。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「されどこの一件ひとくだりのことはファブリイス夫人こころに秘めてうからにだに知らせ玉はず、女官の闕員けついんあればしばしのつとめにとて呼寄せ、陛下へいかのおんのぞみもだしがたしとて遂にとどめられぬ。」
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
その頃修善寺には北白川きたしらかわみやがおいでになっていた。東洋城は始終しじゅうそちらの方のつとめに追われて、つい一丁ほどしか隔っていない菊屋の別館からも、容易に余の宿までは来る事ができない様子であった。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
折衷派だに稀なる今の我小説界にて、人間派を求めむは、文學に忠誠なる判者の事にあらずとやうに、時のつとめをおもひて、迂濶うくわつなる批評家をおどろかさむとしたるあと、歴々として見ゆるならずや。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)