鼾声かんせい)” の例文
旧字:鼾聲
やがて、寝返りの力が段々弱くなって行き、もう身動きをしなくなったかと思うと、その代りに、雷の様な鼾声かんせいが響き始めました。
屋根裏の散歩者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
起きて焚火をする音に南日君も目を覚して、二言、三言話したかと思うと又ごろり横になって、大袈裟にいえば鼾声かんせい小屋をゆるがさんばかりであった。
奥秩父の山旅日記 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
そこに、月輪の四人が、思い思いの形に寝こんで、かすかな鼾声かんせいを聞かせているのは平七郎らしかった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
外に出て一応各部署を点検し終わると、ふたたび幕営に入り、らいのごとき鼾声かんせいを立てて熟睡した。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
雷の如しというほどでもないが、主将玄蕃允盛政げんばのじょうもりまさ鼾声かんせいが、そこから、さもこころよげに洩れてくる。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
卑弥呼は部屋の中を見廻した。しかし、一人として彼女のますますわたったそのほがらかな眼を見詰めている者は誰もなかった。ただ酒気と鼾声かんせいとが乱れた食器の方々から流れていた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
福岡市湊町みなとまちの下宿に帰って二三時間のあいだらいの如き鼾声かんせいを放って熟睡していた。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
この夜、吉岡髯将軍ビール二杯呑んだところが早速酔っ払ってしまい、自分から注文した名物の羊羹ようかんが来たのも知らずに、鼾声かんせいらいのごとくグーグームニャムニャ。木川子と吾輩二人で一皿を平らぐ。
ふたりは極度きょくど疲労ひろうした人のように、鼾声かんせいをあげて早くも熟睡じゅくすいした。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
拙者せっしゃはつぎの宿直とのいにひかえておりましたが、鼾声かんせいらいのごとく、夜明けまでお目ざめのようすもなかったのに、なんとしてそんなことがおわかりでございましょうや」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
雲集して来る蚤の真っただ中へ、どたりと身を横たえて鼾声かんせいをあげている肉体。
鼾声かんせいらいの如く
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
奇異なる旅の子魯智深ろちしんは、幾度も山にし、野に枕したが、野獣猛禽もうきんも恐れをなしてか、彼の寝姿と鼾声かんせいのあるところは、自然一夜の楽園と化し、なんの禍いも起らなかった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
としている敗軍の将家康の鼾声かんせいも聞えて来たかも知れないのである。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)