鼎坐ていざ)” の例文
かつては、長陣の徒然つれづれに、この松の根がたへむしろをしき、月を賞しながら、官兵衛、半兵衛、秀吉と鼎坐ていざして、古今を談じたこともある。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夜ひとりでいるのは剣呑けんのんだというので、一晩ずつ三人の家を順に提供し合って、三人寄れば文殊もんじゅ智力ちりょく鼎坐ていざして夜を徹することにした。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
その夜、望月少佐の宿泊している工場職員倶楽部の建物の日本座敷を、南工学博士と新一青年とが訪ねて、三人鼎坐ていざして、事件について何かと語り合った。
偉大なる夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「無論雨の洩りさ」と主人が答えると「結構だなあ」と迷亭がすまして云う。鼻子は社交を知らぬ人達だと腹の中でいきどおる。しばらくは三人鼎坐ていざのまま無言である。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
れいの通りおく一間ひとまにて先生及び夫人と鼎坐ていざし、寒暄かんけん挨拶あいさつおわりて先生先ず口を開き、このあいだ、十六歳の時咸臨丸かんりんまるにて御供おともしたる人きたりて夕方まではなしましたと、夫人にむかわれ
人並外れて身体からだの大きい署長と、でっぷり太ったあまり人相のよくない職長と、痩形やせがたの沖田刑事との鼎坐ていざは、もしはたから見ている者があったなら、すこぶる珍な対照だったに違いない。
五階の窓:03 合作の三 (新字新仮名) / 森下雨村(著)
それから、三人は部屋の中央に鼎坐ていざして、たとえ壁やドアに耳があっても聴き取れぬほどの小声で話しはじめた。先ず恭しく口を切ったのは機密局長オブライエンであった。
偉大なる夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そこでの鼎坐ていざはだいぶ長かった。小姓たちまでみな退けて、極く内輪うちわの密談らしく思われた。ひとり許されていた連歌師の幽古ゆうこのみが、頃をはかって、陰で茶筅ちゃせんの音をたてていた。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
秀吉を中に竹中半兵衛、黒田官兵衛、そう三人は、莚のうえに鼎坐ていざしていた。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)