うそ)” の例文
北沢の上流では黒木立の中でうそが頻りに鳴いていた。いつか此処ここで鷹の捕えた懸巣かけすを奪い取ったことを思い出す。快晴なので朝から日ざしが暑い。
が、そのことを其處の僧に言ふと、僧は苦笑しながら、今年はどうしたのかこの裏山から奧にかけてうその鳥が誠に多く、みな彼等に花の蕾をたべられてしまひましたといふ。
花二三 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
纖細な、薄紅いうその脛のやうな莖が裾をからげたままで、寒さうに立つてゐる。
飛鳥寺 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
一匹の牝牛のそばにはうそのやうに真赤な鼻の、放埒な若者が寝そべつてゐた。そのむかうには、磁石や、藍玉や、散弾や、輪麺麭ブーブリキといつた品々を持つた女商人がグウグウ鼾をかいてゐた。
万一、僕がその気になったら、たとえば茶色のつぐみとか、ぴょいぴょい跳び回るおめかし屋のうそとか、そのほかフランス中にいろいろいる鳥のどれかが、奴隷どれいの境遇に落ち込んでしまうんだ。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
第二回の大調和展に出した「うそ」は野口米次郎さんの親類の人が買った。又後に出した「石榴ざくろ」は京都の方の好事家が持っている訳だが、此などは後で一寸借りたいと思って面倒な思をした。
回想録 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
汗沁むる木彫のうそにぎりて朝行きし前を夕かへりをり
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
どこの村の男であらう 媒鳥をとりうそは啼かないで
閒花集 (旧字旧仮名) / 三好達治(著)
仰げば、リンデンの樹ではうその唄。
希臘十字 (新字旧仮名) / 高祖保(著)
うそのゐて、沈思の森の金の接唇くちづけ
うそが鳴くわい
野口雨情民謡叢書 第一篇 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
晴れた極寒の日には優雅な波蘭貴族よろしくの姿をした胸の赤いうそが餌を曳つぱりながら雪の上を歩きまはり、子供らはでつかい槌を持つて氷の上を走りまはつて、木の球を追つかけた。
鳴き声がゼニトリゼニトリと聞えるので、登山者の間には銭鳥で通っている目細めぼそや、淋しい声でヒヨーヒヨーと鳴くうそなども聞かれる。朝の雪渓は全く一しきり小鳥の合唱所のような観がある。
白馬岳 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
玉蘭はくれんの花咲きてよりる鳥の尾長・うそひたき・雀みなあはれ
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
梢からうそが應へる あちらを向いたまま
閒花集 (旧字旧仮名) / 三好達治(著)
うそおとしたまじ
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
櫻の枝に 頬紅さしたうその群れ
閒花集 (旧字旧仮名) / 三好達治(著)
うその鳥かな
短歌集 日まはり (旧字旧仮名) / 三好達治(著)