たば)” の例文
「ええ、たばかられた」と一角は、われとわが不覚をののしりながら、地団駄をふんで、ふたたび相手のかげを血眼で探しはじめた。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
稍々やや誇張して云えば、早苗の自殺ではっと気を緊めた見物の前に、大きく「ええ、口惜しや、たばかられたか!」
印象:九月の帝国劇場 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
女役者ではありますが、その実名古屋の殿様には、かたきにあたる島津太郎丸、その方の隠密でございました。そうして妾の役目というのは、宗春様をたばかって、毒殺することでございました。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
かたじけない——。話が、前後したが、それはもう十三年も前だ、若党の佐太郎めにたばかられて、拙者の妹八重は家出した。それを
下頭橋由来 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たばかられて捕縛めしとられ、無残にも刑死をとげられたのじゃよ
南無なむ……。これで先の年、博多において、少弐、大友らのためたばかられて無念の死をとげたわが父寂阿殿じゃくあどのあだを取ッた」
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『——われわれは、まんまと、その下手人に、たばかられたのじゃ。折角、御城内にいたものを、いっしてしもうたのだ』
夏虫行燈 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おそらくは、そちこそ大沢の口舌にたばかられて、不敵な彼奴にあやつられておるにちがいない——と、お疑いあそばしてな
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『又しても、上野介め、当家をたばかり居ったか。下検分は明日あすと申すぞ、今宵こよいのうちに、手配をせい』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「さては、てめえは吉水へ忍び込んで行って、あべこべに吉水禅房の法然や善信にたばかられたな」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そちの母は、仏者のことゆえ、諸院と往来あるは当りまえじゃが、信長をのろう門徒の諜者ちょうじゃなどにたばかられぬよう……女じゃ、そちからそっと折を見ていましめておいたがよいぞ」
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そ! ……それを! ……自分から手をまわしたのは、貴様の高僧めかしたことばに巧々うまうまたばかられたのだ。たとい縄目にはかけても、このような生き恥をかかせはしまいと信じたからだ」
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)