風采みなり)” の例文
勤め先からの帰りと覚しい人通りがにわかにしげくなって、その中にはちょっとした風采みなりの紳士もある。馬に乗った軍人もある。人力車じんりきしゃも通る。
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
常夜燈の蔭から現われた、女役者の荻野八重梅、町家の女房という風采みなりである。お高祖頭巾こそずきんを冠っている。二人の行衛ゆくえを見送ったが、さすがに気持ちが悪いらしい。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
主人あるじは客の風采みなりていてまだ何とも言わない、その時奥で手の鳴る音がした。
忘れえぬ人々 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
女は突然立止たちとゞまりて、近くの街燈をたよりに、少時しばし余が風采みなりを打眺め候ふが、忽ちべにしたる唇より白き歯を見せて微笑み候。
夜あるき (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
土子土呂之介つちことろのすけに剣を学び、天真正伝神道流では万夫不当ばんぷふとうだということや、利休好みの茶の十徳じっとくに同じ色の宗匠頭巾、白の革足袋に福草履、こういうおとなしい風采みなりをして
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
うろうろ徘徊はいかいしている人相にんそうの悪い車夫しゃふがちょっと風采みなり小綺麗こぎれいな通行人のあとうるさく付きまとって乗車をすすめている。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「いずれも立派な風采みなりであろうの?」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
うろ/\徘徊はいくわいしてゐる人相にんさうの悪い車夫しやふ一寸ちよつと風采みなり小綺麗こぎれいな通行人のあとうるさく付きまとつて乗車をすゝめてゐる。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
そしてこの裏さびしくも又懐しい情趣をして、尚一層濃厚ならしむるものは、こゝに生活する人達を目あてに、いろ/\な物を売りに来る商人の疲れた容貌と、やつれた風采みなりとであらう。
勲章 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
そしてこの裏さびしくもまたなつかしい情趣をして、なお一層濃厚ならしむるものは、ここに生活する人たちを目あてに、いろいろな物を売りに来る商人の疲れた容貌ようぼうと、やつれた風采みなりとであろう。
勲章 (新字新仮名) / 永井荷風(著)