音羽屋おとわや)” の例文
下では、「へい、さようなら成田屋の河内山こうちやま音羽屋おとわや直侍なおざむらいを一つ、最初は河内山」と云って、声色こわいろを使いはじめた。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
どうです? お蓮さん。今こそお蓮さんなんぞと云っているが、お蓮さんとは世を忍ぶ仮の名さ。ここは一番音羽屋おとわやで行きたいね。お蓮さんとは——
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
五代目音羽屋おとわやのごときは英語の勉強を始めたと言って、俳優ながら気の鋭いものだと当時の新聞紙上に書き立てられるほどの世の中になって来ていた。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
枕に後向うしろむきに横はりし音羽屋おとわやの姿は実に何ともいへたものにはあらず小春が手を取りよろよろと駆け出で花道はなみちいつもの処にて本釣ほんつりを打ち込み後手うしろで角帯かくおび引締めむこう
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
まず音羽屋おとわやに聞いてもらいたいなんてッて、あのが、他愛のない処へ付け込んで、おひゃり上げて、一服承知させた連中、残らず、こりゃうらまれそうなこッてげす。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
求古会の人たちは楽屋を出てから、「音羽屋おとわやは相変わらず如才がない。」と言っていた。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
五分月代ごぶさかやき唐桟とうざんの襟附の絆纏はんてんを引っかけて、ちょっと音羽屋おとわやの鼠小僧といったような気取り方で、多少の凄味をかせて、がんりきの百蔵が現われることを期待していると、意外にも
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
牡丹燈籠ぼたんどうろうとかの活人形いきにんぎょうはその脇にあり。酒中花しゅちゅうか欠皿かけざらに開いて赤けれども買う人もなくて爺が煙管きせるしきりに煙を吐く。蓄音機今音羽屋おとわやの弁天小僧にして向いの壮士腕をまくって耶蘇教やそきょうを攻撃するあり。
半日ある記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
誰か見ている人があれば、そのキッかけに、「音羽屋おとわや!」とか「立花屋たちばなや!」とか言ってみたいような、御当人もまた、それを言ってもらいたいような気取り方だが、あいにく誰もいない。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しかし大方は四十を越した老人としよりばかりなので、あの般若の留さんは音羽屋おとわやのやった六三ろくさ佐七さしちのようなイキなイナセな昔の職人の最後の面影をば、私の眼に残してくれた忘れられない恩人である。
伝通院 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
仏頂寺の型が、竜之助の音無おとなしうつしにそっくり出来たものだから、音羽屋おとわや! とでも言いたくなったのでしょうが、音羽屋とも言えないから、それで単にそっくりといってみたものでしょう。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)