面伏おもぶ)” の例文
私はユアンの感謝を聞いているのも面伏おもぶせしく、くどくどした礼の言葉を背後に聞き流しながら、暖炉の前に腰を降ろしたのであった。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
久しく家に燻ぶつてゐたので、訳もなく向く人達の眼にも一寸面伏おもぶせなやうな気がして、妻は夫の指してくれた空席に急いで腰を下した。
散歩 (新字旧仮名) / 水野仙子(著)
好奇心をもった眼が集まってくるのが面伏おもぶせでもあり、言葉がよく分らないから、何をいわれているのかモルガンの顔の色で悟るよりほかなかった。
モルガンお雪 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
良心に恥ずる所なしとはいいながら、何とやら、面伏おもぶせにて同志とすら言葉をかわすべき勇気もせ、穴へも入りたかりし一昼夜を過ぎて、ようやく神戸に着く。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
「誰も彼も、友だちどもは、隠れものう知っておることよ。今さら、面伏おもぶせに、云いごもっておるよりは、さらりと、胸のうちを申してしまおう。……のう、木下どの」
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
此頃このごろかの女には何か陰のある辱かしさ、たつた一人の時にことにも深く感ずる面伏おもぶせな実感である。
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
世継ぎの若君が変死したとあっては、かみに対しても面伏おもぶせである。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
博士は少し面伏おもぶせな様子で
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
同志の手には落ちずして、かえって警察官の手に入らんとは、かえすがえすも面伏おもぶせなるわざなりけり。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
武士達の中には滂沱ぼうだの涙を拳で払っている者、面伏おもぶせに暗涙をのんでいる者もあった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お鯉は眼をふせて面伏おもぶせそうに笑ったが
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
と、内蔵吉は、又、面伏おもぶせに、を下げてしまった。
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
面伏おもぶせに、焼香をすまし、座にもどった。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)