雪解ゆきどけ)” の例文
草鞋わらじの足音がぴちゃぴちゃと聞えるので雪解ゆきどけのひどい事が想像せられる。兼太郎は寝過ねすごしてかえっていい事をしたとも思った。
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「川も春になると、雪解ゆきどけで水かさが増えるでええのう。かう水があふれて、ゆつたり流れてゐるのは、気持のええものだわい。」
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
そこは今は凍りついてゐるが幾日か前の急な雪解ゆきどけの爲めに小川が溢れた所なのだ。私の坐つてゐる所からはソーンフィールドが見下された。
やうや雪解ゆきどけがすんだばかりなので、ところどころでちよろ/\小流こながれが出来てゐた。掘返へしても掘返へしても、かなり下の方まで土がぢく/\ぬれれてゐた。
新らしき祖先 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
川の水も真ん中で二つに分れて、左は湯のように熱く、右寄は雪解ゆきどけのようにひややかだった。その中央の一線に乗って、与惣次は矢のように走り下った。
雪解ゆきどけの日は、更に使い歩きが辛いのでした。かと思うと、ひどい霧の日が続きました。そんな時、街路は幾年か前セエラが初めて父と辻馬車を走らせた時のようでした。
道は『雪解ゆきどけみち』になつて、朝のうちは氷つてもひる過ぎからは全くの泥道で、歩くのにまた難儀なのが幾日も幾日も続く。さういふ時には草鞋わらぢは毎日一足ぐらゐづつ切れた。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
プリムロウズは山月桂樹の枝を少し取ったが、その葉は去年の葉だのに、霜や雪解ゆきどけが交代でその葉の組織で力試しをしたことなどはまるでなかったかのように、青々として弾力があった。
『見られよ、郡兵衛殿、いずれもかように一念を遂げ、上野介殿の首級しるしを泉岳寺へ持参する途中でござる。貴公は又、何用あって、この雪解ゆきどけのなかを、御苦労にもうろうろ歩いておられるのか』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
銚子河口や江戸川から冬中、海で育った小鮎が淡水に向かうのは三月下旬から四月中旬へかけて、雪解ゆきどけ水が出はじめた頃であるが、人の肌を切るような冷たい水を小鮎は上流へ、上流へと遡っていく。
香魚と水質 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
あなたの烈しい恋愛が、最初雪解ゆきどけのした跡で
雪解ゆきどけにわかに人のゆきゝかな
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
そこまでは村から行程かうてい十四里である。第二日は、まだ暁にならぬうちに志津しづといふ村に著いて、そこで先達せんだつを頼んだ。それからの山道は雪解ゆきどけの水を渡るといふやうなところが度々あつた。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
雪解ゆきどけしずくすれ/\に干蒲団ほしぶとん
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
流の岸は人造石の堤防で堅めてゐるので、水は割合に激せずに流れるのであるが、それでもその堤防の損じた処がところどころにある。恐らく春の雪解ゆきどけの季節に洪水のする為業しわざであるだらう。
イーサル川 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)