雨樋あまどい)” の例文
漆喰しっくいの割目から生え伸びているほどで、屋根は傾き塗料は剥げ、雨樋あまどいは壊れ落ちて、蛇腹じゃばらや破風は、海燕の巣で一面に覆われていた。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
金蔵の南の方に用水井戸がありますが、井桁いげたが栗材で、これは石に縁がなく、雨樋あまどいは水に縁があっても、あかですからかねに縁を生じます。
この辺の雀は勝手がちがうためか、時には実に無法な巣の作り方をする。雨樋あまどいの受口にわらなどを運んで来て、雨が降るたびにぐに流れる。
軒下の暗がり伝いに足音をぬすみ窃み、台所の角に取付けた新しいコールタぬり雨樋あまどいをめぐって、裏手の風呂場と、納屋の物置の廂合ひさしあいの下に来た。
笑う唖女 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
政治狂が便所わきの雨樋あまどいの朽ちた奴を……一雨ぐらいじゃ直ぐ乾く……握り壊して来る間に、お雪さんは、茸に敷いた山草を、あの小石の前へ挿しましたっけ。
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
御堂の大廂おおびさしから廻廊のかどへ下がっている太竹ふとだけ雨樋あまどいを斬ったのじゃ、それがわたしの身代りになって、今朝までは二つに斬れてぶらんとしておりましたが、お坊さんが
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これは扇の骨というような最も繊細な装置のみでなく、家屋の雨樋あまどいにも使用する。
まっすぐ雨樋あまどいをおろした壁にはいろいろのポスタアのがれたあと
浅草公園:或シナリオ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
葉子はふと雨樋あまどいを伝う雨だれの音を聞いた。日本に帰ってから始めて空はしぐれていたのだ。部屋へやの中は盛んな鉄びんの湯気ゆげでそう寒くはないけれども、戸外は薄ら寒い日和ひよりになっているらしかった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
横木に少しの泥も付いてはいず、二本の脚が、柔かい土にメリ込んでもいず、梯子を掛けた竹の古い雨樋あまどいも、少しも傷んではいなかったのです。
夜は時雨しぐれとなったらしい。雨樋あまどいをあふれる雨だれの音が烈しく軒下を打つ。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と言う声を後に二階の縁側の欄干らんかんを越えると、ひさしを渡って、腹ん這いに雨樋あまどいに手が掛りました。
「御冗談で——、そんな怨みを買うあっしじゃありません。酔っ払って、下水へ転がり落ちるはずみに、雨樋あまどいの先のとんがったところで、ほんの少し引っ掻いただけなんで——」
「知りませんよ。屋根から雨樋あまどいを伝わって降りて来たのは、この野郎だけで」