隔意かくい)” の例文
何故に私がこんな風な行動を取つたかをもまた、十分にくはしく説明した。ダイアナとメァリーは隔意かくいなく私の處置に賛成してくれた。
自分に対して隔意かくいがないからだとも考へ直して見て、そこに昔の大通だいつうのあつさりした遊振りを思合せて、聊かの満足を覚えることもあつた。
瘢痕 (新字旧仮名) / 平出修(著)
ことしも戦乱の中だが、菊もつくった。後で、菊畑へ出て見てもらおう——などと隔意かくいもないもてなしである。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ほんとうに親一人子一人の間柄あいだがらであったが、そういう間柄であればある程、あの妙な肉親憎悪とでもいう様な感情の為に、おたがいに何となく隔意かくいを感じ合っていた。
夢遊病者の死 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
争いもなければおこる事もない、自他の別を生ずるによって隔意かくいが出来る、隔意のある所から、物の争いが出来るものじゃ、先方むこうに金があるから取ってやろうとすると
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
隔意かくいなしにもてなしてくれた。
くろん坊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
彼女に対する不思議な隔意かくい、そして、あののっぴきならぬ確かな証拠と並べ立てて考えますと、やっぱりどこやら疑わしく、これは、一人でくよくよしていないで
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
……そもそも、今の武将のうちに、一体、誰を力に、将軍家を頼み参らすべきか。藤孝もとんとこうじ果ててござる。隔意かくいのない御意見もあらば、聞かせて戴きたいものであるが
茶漬三略 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
はつきりとは分らない乍ら——何故なら彼のやうな性質の人の上に、張りつめた隔意かくいの氷を破ることは、どんな時にも困難なことだから——その時、彼が最初に口を開いたので
それが、瑠璃子というものが出来て見ると、何だか今迄の様な、隔意かくいない親しみが少しうすらいだ様な気がする。川村の前で妻をほめたりして、悪いことをしたと思った。
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
……のう、越前どの。御隔意かくいなく。……よも、貴殿としても、これに御異存ではござるまいが
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼はその眼を自分の心をあらはす道具としてよりも寧ろ相手の心を探る爲めの器械として、使用してゐるやうに見えた。鋭さと隔意かくいとの結合は人を鼓舞するよりもかなり當惑させようとかゝつてゐた。
『各〻の今度の致し方、越中守も神妙に存ずる。もはや深更のこと、緩々ゆるゆる、手脚を伸べて休息するがよい。又、何ぞ相応の用事もあらば、隔意かくいなく、家来共へ申し出られい』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
品川は隔意かくいのない明るい調子であった。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「河内、そちにおいては、新田へ隔意かくいをふくむ心は、まったくないと申すのだな」
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
塔十郎は、彼のさもしい眼には気づかぬように、鷹揚おうように、隔意かくいのない容子ようす
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)