錦町にしきちょう)” の例文
その実は琉球屋敷の手すきに錦町にしきちょう辺の高等下宿へもかせぎに行くといふ事なりしが、僕も跡をつけて見たわけではなし。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
私は翌日早速錦町にしきちょうの某私立法律学校へ入学の手続を済ませて、其処の生徒になって、珍らしいうちは熱心に勉強もしたが、其中そのうちに段々怠り勝になった。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
長き海路うみじつつがなく無事横浜に着、直ちに汽車にて上京し、神田かんだ錦町にしきちょう寓居ぐうきょに入りけるに、一年余りも先に来り居たる叔母は大いに喜び、一同をいたわり慰めて
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
一緒に外へ出て支那料理を食べたり、昔し錦町にしきちょうに下宿していた時分、神保町じんぼうちょうにいた画家で俳人である峰岸と一緒に、よく行ったことのある色物の寄席よせへ入ってみたりした。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
神田かんだ錦町にしきちょうで、青年社という、正則英語学校のすぐ次の通りで、街道に面したガラス戸の前には、新刊の書籍の看板が五つ六つも並べられてあって、戸をけて中に入ると
少女病 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
古本をあさることはこの節彼が見つけた慰藉なぐさみの一つであった。これ程費用ついえが少くて快楽たのしみの多いものはなかろう、とは持論である。その日も例のように錦町にしきちょうから小川町の通りへ出た。
並木 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「おとうさん、わたしすこし用がありますから錦町にしきちょうまでいってきます」
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
「は」と云って、文吉は錦町にしきちょうの方角へ駆け出した。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
神田錦町にしきちょうに在った貸席錦輝館で、サンフランシスコ市街の光景を写したものを見たことがあった。活動写真という言葉のできたのも恐らくはその時分からであろう。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
高い男は中背の男の顔を尻眼しりめにかけて口をつぐんでしまッたので談話はなしがすこし中絶とぎれる。錦町にしきちょうへ曲り込んで二ツ目の横町の角まで参った時、中背の男は不図ふと立止って
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
右へ堀端を護持院ヶ原ごじいんがはらについて神田橋手前本多伊勢守屋敷の前通を右へ、現在の錦町にしきちょう通を北に進み、小川町に出で、稲葉丹後守屋敷前の通を左へ、現在の淡路町あわじちょう通を過ぎ
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)