錦小路にしきこうじ)” の例文
六角の南、錦小路にしきこうじの北、洞院とういんの西、油小路の東、本能寺の四面両門はもう明智勢の甲冑かっちゅうと、先途せんどを争う寄せ声で埋まっていた。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
秋田藩物頭役ものがしらやくとして入京していた平田鉄胤が寓居ぐうきょのあるところだという錦小路にしきこうじ——それらの町々の名も、この人の口から出る。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そして大急ぎでタキシーを拾って御幸町ごこうまち錦小路にしきこうじまで飛ばした。私はまず、食料品の買い出しに来たという証拠に、錦の市場でだの湯葉だの野菜物だのを買った。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
京極三太郎は編集長の云いつけで、錦小路にしきこうじという、曾ての公卿くげ華族を訪ねました。その家の有名なお嬢さんが、映画界に入るという早耳の噂を聴いて、訪問記事の特種とくだねを取るためだったのです。
既にして岡本氏の家衰えて、畑成文はたせいぶんに託してこのまきろうとした。成文は錦小路にしきこうじ中務権少輔なかつかさごんしょうゆう頼易よりおさに勧めて元本を買わしめ、副本はこれをおのれが家にとどめた。錦小路は京都における丹波氏のえいである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
うわさのあった復興最中の都会の空気の中に身を置いて見て、案内顔な香蔵や景蔵と共に連れだちながら、平田家のある錦小路にしきこうじまで歩いた時。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
錦小路にしきこうじさま(直義)へ、一切の権をおゆだねあるなどは、ちと早計ではござりますまいか。天下の耕地は、刈入かりいれどころか、まだまだ、青田にもなっておりません。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼が暇乞いとまごいのために師鉄胤の住む錦小路にしきこうじに立ち寄り、正香らにも別れを告げて、京都を出立して来るころは、町々は再度の英国公使参内のうわさで持ちきっていた。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
錦小路にしきこうじやしきだった。千貫以上の禄取りが住む古い武家構えの窓先なのである。
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
謹慎を命ぜられた三条、西三条、東久世ひがしくぜ壬生みぶ、四条、錦小路にしきこうじ、沢の七卿はすでに難を方広寺に避け、明日は七百余人の長州兵と共に山口方面へ向けて退却するとのうわさがある。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
惣門そうもん前通りから四条の方へ寄った往来は、所司代の第宅ていたくもあり、武家の小路もあり、町も整って、都らしくなるが、北側の錦小路にしきこうじあたりは、今なお整理されない貧民窟ひんみんくつが、室町むろまちの世頃をそのまま
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
館松たてまつさんは、もう錦小路にしきこうじ(鉄胤の寓居ぐうきょをさす)をおたずねでございましたか。」
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「直義にけ。錦小路にしきこうじ殿に従ってせい」
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)