醇朴じゅんぼく)” の例文
「いっそ、南方へ蒙塵もうじんあそばすのが、いちばん安全でしょう。南方はまだ醇朴じゅんぼくな風があるし、丞相じょうしょう孔明がいた徳はまだ民の中に残っています」
三国志:12 篇外余録 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わたくしをして、う思わせるだけでも、銀座や上野あたりの広いカフエーに長年働いている女給などに比較したなら、お雪の如きは正直とも醇朴じゅんぼくとも言える。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
土地の醇朴じゅんぼくな陶工たちが金銭で恩を売る買手の甘言かんげんに、迷わされては気の毒の至りではないか。小石原は今こそ、その歴史の曲り角に立っているのを自覚しているであろうか。
小鹿田窯への懸念 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
醇朴じゅんぼくな開けっぱなしな町の人達の気風も気に入った。旅館の部屋も居心地がよかった。そこは海岸ではあったけれど、海水浴場というよりはむしろ温泉町として名高い所だった。
幽霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
奇妙な謡曲をうたう者、流行節を唄い唄い座ったままおどり出しているもの……不安とか、不吉とかいう影のミジンもしていない、醇朴じゅんぼくそのもののような田舎いなかの人々の集まりであった。
笑う唖女 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
玄徳の特長はその生真面目きまじめな態度にある。彼の言葉は至極平凡で、滔々とうとうの弁でもなく、なんらの機智もないが、ただけれんや駈引きがない。醇朴じゅんぼくと真面目だけである。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
模様がうぶで、純で、どこか西欧の農民工藝と通じるところがある。この種の刺繍枕は京畿道あたりにもあるが、おそらく光州のが一番であろうか。技巧が達者でないだけかえって醇朴じゅんぼくである。
全羅紀行 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
あの醇朴じゅんぼくな老先生の風貌を思い、そのご子息郁次郎が下手人の覆面だと考えて来ると、公私両面に種々いろいろな私恩や情実も絡まって参るわけだな。これやどうも、迂闊うかつに手出しを
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私はまだつまびらかにはしませんが、九州は真宗しんしゅうの信心の盛んな所ですから、あるいはこの村にも、この庶民の仏教が活きていて、醇朴じゅんぼくな信仰生活が、村人の間に行われているのかとも想像されるくらいです。
多々良の雑器 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
平和で醇朴じゅんぼくで、お通さんのような佳人は、世俗の血みどろなちまたへ出さずに、生涯そっと、こういう山河に住まわせて置きたいものじゃ。たとえばそこらに啼いている鶯のようにな
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)