遠去とおざ)” の例文
かくしてそのトラックは速力をゆるめることなしに、店員にガソリンの排気はいきをいやというほど引掛ひっかけて遠去とおざかっていってしまったのである。
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
くろい頭巾ずきんの中から、ふくろのような目をギョロリとさせて、やなぎがくれに遠去とおざかる三つの網代笠あじろがさを見おくっていたが、やがてウムとひとりでうなずいた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
喬介は振り返って、遠去とおざけてあった矢島五郎の側まであゆると、かたえの警官には眼もれず、こう声を掛けた。
カンカン虫殺人事件 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
そして自分の好きな女と一緒になりたいのだ。このやな女と好きな女と、いずれに決するかという問題になった時、やな女を遠去とおざけて、好きな女を貰ってしまった。
白い光と上野の鐘 (新字新仮名) / 沼田一雅(著)
槍持が、その刀を避けたはずみに、槍の柄は、半兵衛の手から、遠去とおざかった。
寛永武道鑑 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
そうしてその時、軽い風が北東から吹いていたので、その船は私たちから次第に遠去とおざかっていった。私たちのボートはそれから、長い滑らかなローラーの上を昇ったりおりたりしながらただよった。
まもなく向うで自動車に乗ったらしく、音がしてそれが遠去とおざかっていく。少年は洞穴ほらあなを出てこれを見届けたが、引き返そうとしてはっとして樹蔭こかげに隠れた。またも五人の男が荷物を持って出てきた。
せっかく世間を遠去とおざかって入湯にきているものを、熱海あたみくんだりまで来ていッそうこうでは、さだめし当人にわずらわしかろうと思われますが、それが案外で、次郎という小僕も、小間使いも
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、ミドリは不安そうに、遠去とおざかりゆく猿田の後姿をふりかえった。
月世界探険記 (新字新仮名) / 海野十三(著)
が、間もなく喬介は縛られた男を私達から遠去とおざけて、喋り始めた。
カンカン虫殺人事件 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)