遊蕩児ゆうとうじ)” の例文
いかにも人の不幸のところへ心ない遊蕩児ゆうとうじ気紛きまぐれな仕業しわざと人に取られるかも知れなかったが、思う人には何とでも思わせておいて
生不動 (新字新仮名) / 橘外男(著)
そして有用な観念はそういう所にこそ存する。全体としてはパリーが一番すぐれている。パリーでは、屑屋くずやに至るまで遊蕩児ゆうとうじである。
水夫たちも、火夫たちもデッキへ出て、悲惨な遊蕩児ゆうとうじたちをながめた。伝馬は近づいた。大工は鼻歌をうたっていた。彼は、また声がいいのだ。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
柏葉亭はくようていでもよいし、宇治あたりでもよいじゃありませんか。一夕、御老母を中心にしてくつろぎながら、山陽先生の宮島がよい頃の遊蕩児ゆうとうじぶりや、座敷牢時代のご苦心を
梅颸の杖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
居続けの遊蕩児ゆうとうじの様な、焼けくそな気持で、ギラギラと毒々しい着色死体を物狂おしく愛撫あいぶした。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
恋の競争相手が遊蕩児ゆうとうじであり悪漢であることは、恋する人にとって決して不幸なことではない。
次郎物語:04 第四部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
「戯作者——徳川時代の通人、粋客、遊蕩児ゆうとうじといったような半面を持っている男ですか」
山道 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ただ科学の野辺に漂浪して名もない一輪の花を摘んではそのつつましい花冠の中に秘められた喜びを味わうために生涯を徒費しても惜しいと思わないような「遊蕩児ゆうとうじ」のために
科学に志す人へ (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
それからクヴシンニコフって中尉だがね……。こいつが君、とても面白い奴なんだ! まず、どちらから見ても遊蕩児ゆうとうじだといえるねえ。おれたちは始終こいつと一緒だったんだ。
坪田村という所のお医者さんで色の白い、素白しらふのときはよく口ごもっておとなしいが、酒飲みで、そうなるとまるで様子の変る人が時々やってきた。噂では大変な遊蕩児ゆうとうじだという。
石ころ路 (新字新仮名) / 田畑修一郎(著)
この頃の或る新聞に、沼南が流連して馴染なじみの女が病気でている枕頭ちんとうにイツマデも附添って手厚く看護したという逸事が載っているが、沼南は心中しんじゅう仕損しそこないまでした遊蕩児ゆうとうじであった。
三十年前の島田沼南 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
きて直ちにふり捨てて次の女を我が物とし、もう全くの遊蕩児ゆうとうじとなり終ったので、母人も悴の身の上を苦にして歿去したのであるが、呉羽之介の方ではそれを良いことにいよいよ魔道のよろこびに
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
そりゃまだいにしても、評判の遊蕩児ゆうとうじと来ているんでしょう。そのために何でも父の話じゃ、禁治産きんじさんか何かになりそうなんですって。だから両親もあたしの従兄には候補者の資格を認めていないの。
文放古 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
従ってここに歌われるのは、ある一つの心に起こった特殊な感情の動きではない。遊蕩児ゆうとうじに共通なさまざまの情調を、断片的に点綴てんてつして、そこに非個人的な一つの生活情調を描き出しているのである。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
「お前も、お前だぞっ。よう聞けっ、この馬鹿娘が、この遊蕩児ゆうとうじに、遊びのしろを、みついでおるのじゃっ。——貴様っ、母として、なぜそんなことに気づかん。不行届き千万なっ」
べんがら炬燵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
道化者パントラビュスはイギリス・カフェーで遊蕩児ゆうとうじノメンタヌスをも愚弄ぐろうする。