逸散いっさん)” の例文
いきなり両手に持っていたいろんな物をじいやに押つけると、くるりと背中を見せて、正式に練習の積んだ姿勢で逸散いっさんにかけ出した。
九月一日 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
逸散いっさんに駈て来て、ドカッと深い穴へ落ちたら、彼様あんな気がするだろうと思う。私は然う聞くと、ハッと内へ気息いきを引いた。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
すけたんじた。そして身をひるがえすやいな、湊川の川尻のほうへ逸散いっさんに駈け去った。——同時に、彼の姿が、或る一合図を、足利勢のすべてへ告げていたことでもあったか。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私は背後に格子のあく音を耳にすると、長屋の前の敷石道を逸散いっさんに駈けだした。
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
その小高い葦簾張りの監視所を飛出すと砂浜を逸散いっさんに駈出していた。
地図にない島 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
するとその二人の男は杖を打棄うっちゃって逸散いっさんに逃げ出したです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
二三度彼方此方あちこちで小突かれて、蹌踉よろよろとして、あやうかったのをやッ踏耐ふんごたえるや、あとをも見ずに逸散いっさんに宙を飛でうちへ帰った。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
すくなからぬいたずら気分で、足の遅い女の倒れそうになるのも構わず、逸散いっさんにホテルの葭簀よしず小屋まで駆足を続けた。
九月一日 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
うちの横町の角迄来てくすぐッたいような心持になって、そッと其方角を観る。果してポチが門前へ迎えに出ている。私を看附みつけるや、逸散いっさんに飛んで来て、飛付く、める。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)