誰人だれ)” の例文
この深夜しんや、一体何ごとが起ったというのであろう。ジュリアをめる男は誰人だれ? そして地底に現われた吸血鬼は、そも何処にひそめる?
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
誰人だれむかえにてくれるものはないのかしら……。』わたくしはまるで真暗闇まっくらやみ底無そこなしの井戸いど内部なかへでもおとされたようにかんずるのでした。
その、造りものの鐘の外部にさえ、手を触れた方は、誰人だれもいないのでございます。幕のあいた最初から、殺人の発見まで
京鹿子娘道成寺 (新字新仮名) / 酒井嘉七(著)
科学者は誰人だれも探偵小説によりて利益を得ることは言うまでもないが、医者はことに探偵小説と縁の深いものである。
科学的研究と探偵小説 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
将棋の上達方法は、誰人だれも聴きたいところであらうと思ふが、結局盤数ばんかずを指すのが一番だと思ふ。
将棋 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
奥さんはばつを悪くしてそれから諄々くど/\とお腹に向ひ人気商売の力士は誰人だれにも愛想よくすべきものゝよしを言ひ聞かせました。奥さんは女として低い方ではありませなんだ。
怪物と飯を食ふ話 (新字旧仮名) / 岡本一平(著)
人一代の伝をくわしく残そうとすれば誰人だれを伝しても一部の小冊は得られよう。
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
『人間は誰人だれに限らず、精神異常の素質を有す』ということになる。素敵な発見じゃないか
キド効果 (新字新仮名) / 海野十三(著)
敬吉の上京は夜逃よにげに近いものであつた。上京したら早稲田へでも、入学しようと云ふやうな、明るい希望が、動いて居ないでもなかつたが、彼の出立は、誰人だれにも送られない程淋しかつた。
海の中にて (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
けれどもそれだけで彼女の一生を片付てしまおうとするのはあんまり残酷ではあるまいか? 何故とならば、誰人だれに聴いても彼女自身の口から出た、その事件に対しての告白は聴いていない。
芳川鎌子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
誰人だれに見露はされた訳でもなく、誰人だれから非難された訳でもなかつたが、それは済ました顔をしながら、何か悪事を為ようとした処をうまく尻尾を掴まれた感じと、少しも異つては居なかつた。
我鬼 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)