蝋石ろうせき)” の例文
日を見ることを好まない羊歯しだ類が、多くのさばって、もう血色がなくなったといったような、白い葉の楓が、雨に洗われて、美しい蝋石ろうせき色をしている。
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
小さな座敷の窓にはかきの葉の黄ばんだのが蝋石ろうせきのような光沢を見せ、庭には赤いダーリアが燃えていた。一つとして絵にならないものはないように見えた。
写生紀行 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
その蝋石ろうせきのように固くなっている顔色でわかったが、そのうちに私が振り返った顔を静かに見返すと、白い唇をソッとめて、今までとはまるで違った、ひびきの無い声を出した。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ことに青味を帯びた煉上ねりあげ方は、ぎょく蝋石ろうせきの雑種のようで、はなはだ見て心持ちがいい。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
窓の高い天井の低い割には、かなりに明るい六畳の一間で、申しわけのような床の間もあって、申しわけのような掛け物もかかって、おあつらえの蝋石ろうせきの玉がメリンスのしとねに飾られてある。
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
違棚には箱入の人形を大小二つ並べて、その下は七宝焼擬しつぽうやきまがひ一輪挿いちりんざし蝋石ろうせきの飾玉を水色縮緬みづいろちりめん三重みつがさねしとねに載せて、床柱なる水牛の角の懸花入かけはないれは松にはやぶさの勧工場蒔絵まきゑ金々きんきんとして、花を見ず。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
その箱の前に秀真ほつまたる青銅の花瓶の足三つ附きたるありて小き黄菊のつぼみけあり。すぐその横に、蝋石ろうせきの俗なる小花瓶に赤菊二枝ばかりす。総てこの辺の不調和なる事言語道断なり。
明治卅三年十月十五日記事 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
真紅しんくの花と太陽の狂いあう夏の日を思わせるような性質のあるお通の一面に——こんな冷やかな——まるで白い蝋石ろうせきを撫でるような感じのする——そして指を触れれば切れそうな厳しい性格が
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
電燈の光が、蝋石ろうせきの様な死人の顔を、まともに照らした。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)