蕩児とうじ)” の例文
旧字:蕩兒
……それを河森はうるさく責める、永井を蕩児とうじにする気か、と云っておれを責め、丹野とつきあうな、というふうに永井を責めるらしい。
古今集巻之五 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
弴も花柳小説を昔ながらの花柳で描く恐らく最後の作者であろうが、荷風を比べると、その蕩児とうじぶりがちがう。
子は酒肉におぼれて人は蕩児とうじとさげすんでいる。父と子とは浮き世の義理に隔てられつつ互いに慕うている……
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
何時の間にやら一とかどの蕩児とうじになり切って、浅酌低唱に、千金の宵を過す趣味も心得たのでした。
銭形平次捕物控:245 春宵 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
私は帰ってきた蕩児とうじとして、前以上に桂子が好きだった。彼女のためなら、自分の文学も、自分の一生も、不憫ふびんな子供たちも、いっさい、失ってもよいとまで思いつめていた。
野狐 (新字新仮名) / 田中英光(著)
もし、為すことを為さずに終ったら、伏見がよいも、祇園遊蕩ぎおんあそびも、すべて、蕩児とうじ極道事ごくどうごとに帰するのだ。今日までのあらゆる事々、皆、虚偽きょぎ醜行しゅうこうの履歴でないものはなくなるのだ。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
このごろではすっかり市井しせい蕩児とうじになりきっている——伸ばした足先が拍子をとって動いているのは、口三味線くちじゃみせんで小唄でも歌っているらしく、源十郎は陶然として心地よさそうである。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
芸者に三味線をかせて、なかなか渋い声で、びんほつなどをうたい、女にもうたわせ、往年の蕩児とうじはすっかりよい気持になって時間を過したが、下でラジオが九時半の時報を報じている音を聞いて
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
聖書に在る「蕩児とうじの帰宅」を、私はチラと思い浮べた。
故郷 (新字新仮名) / 太宰治(著)
これは『しめ立つ道』という本で岩波書店から出しておりますが、この中に「蓮池」という二部作ぶさくがありますがそのなかの「蕩児とうじちる地獄」だけを読んで
生活と一枚の宗教 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
一八八三年師ギローの勧めでローマ賞に応じ、有名な交声曲カンタータ蕩児とうじ」が一等賞になった。当然の結果としてローマに遊学したが、これは気の毒なことににがい幻滅をめなければならなかった。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
なかなかもののあわれも蕩児とうじの心をそそるのであった。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
カンタータ「蕩児とうじ」より。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)