“蔽(おっ)” の例文
その年老(と)った事務員は、一日の単調な仕事に疲れて役所を出ると、不意に蔽(おっ)かぶさってしだいに深くなってゆく、あの取止(とりと)めもない哀愁に囚われた。
孤独 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
貴僧(あなた)、黒門までは可(い)い天気だったものを、急に大粒な雨!と吃驚(びっくり)しますように、屋根へ掛(かか)りますのが、この蔽(おっ)かぶさった、欅(けやき)の葉の落ちますのです。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
筮竹(ぜいちく)の長袋を前(まえ)半じゃ、小刀のように挟んで、馬乗提灯(うまのりぢょうちん)の古びたのに算木を顕(あらわ)しましたので、黒雲の蔽(おっ)かぶさった、蒸暑い畦(あぜ)を照(てら)し、大手を掉(ふ)って参ります。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
モッフは、その一人に舵機(かじ)を渡しながら、蔽(おっ)かぶせるようにくりかえしたので、漸(やっ)と納得したらしかった。
とあとは独言(ひとりごと)、框(かまち)に腰をかけて、足を突出(つきだ)すやうにして下駄(げた)を穿(は)き、上へ蔽(おっ)かぶさつて、沓脱越(くつぬぎごし)に此方(こちら)から戸をあけるお辻の脇あけの下あたりから、つむりを出して、ひよこ/\と出て行つた。
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)