蔓草つるぐさ)” の例文
そのわけは、工作機械がさびたまま転がっていたり、天井からベルトが蔓草つるぐさのようにたれ下っていたりしたからである。
骸骨館 (新字新仮名) / 海野十三(著)
台所には水棚も水甕みずがめも無く、漬物桶を置いたらしい杉丸太の上をヒョロ長い蔓草つるぐさいまわっていた。空屋特有の湿っぽい、黴臭かびくさい臭いがプンと鼻を衝いた。
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
籬には蔓草つるぐさ埒無らちなまといついていて、それに黄色い花がたくさん咲きかけていた。その花やつぼみをチョイチョイ摘取つみとって、ふところの紙の上に盛溢もりこぼれるほど持って来た。
野道 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
おそらく妹は歌のこころをすぐんでくれるだろう。そして自分のないのちは、兄のあとをとむらうことを口実にして、蔓草つるぐさの垣にも似ている閨門けいもんの花々の群れからのがれてくれるだろう。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
己は静かな所で為事しごとをしようと思って、この海岸のある部落の、小さい下宿に住み込んだ。青々とした蔓草つるぐさの巻き付いている、その家に越して来た当座の、ある日の午前ごぜんであった。
冬の王 (新字新仮名) / ハンス・ランド(著)
くさむらからピリピリイと笛が鳴りひゞきました。あちらからもこちらからも黒い頭が、白い穂芒の間に現はれてワアツとときの声をあげました。向ふから蔓草つるぐさをたすきにかけた一隊が出てきました。
文化村を襲つた子ども (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
うねりのように起伏した緑の芝生の上に、城砦とりでのごとくに張り出した突端……そこにはアカンザス模様の円柱に蔓草つるぐさが一杯にまつわり付いて、藤蔓ふじづるが自然の天井のように強烈なる陽をさえぎっておりました。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)