菲才ひさい)” の例文
「かいなきことを仰せられますな、それがし如き菲才ひさいを捨てて、より良き賢士をお招きあれば、ご武運はさらに赫々かっかくたるものです」
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
年少菲才ひさいの身をもって事にあたったので、意に満たぬ点が多々あった。しかるに今度改訂の機会を得て、旧稿に手を入れてみた。
貧窮ひんきゅう病弱びょうじゃく菲才ひさい双肩そうけんを圧し来って、ややもすれば我れをしてしりえに瞠若どうじゃくたらしめんとすといえども、我れあえて心裡の牙兵を叱咤しったして死戦することを恐れじ。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
ジッドは『狭き門』を読んだ切りで、純情な青年の恋物語であり、シンセリティの尊さを感じたくらいで、……とにかく、浅学菲才ひさいの僕であります。これで失礼申します。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
二十五年第四高等中学校教授ニ任ゼラレ、以テ今ニ至ル。余ヤ菲才ひさい浅学ニシテ府県ニ文部省ニ奉職シ育英ノ任ニむさぼリ、尺寸せきすんノ功ナク、常ニソノ職ヲむなシクセシコトヲはずのみ
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
わたしは正直に創作だけは少くともこの二三年来、菲才ひさいその任に非ずとあきらめてゐる。
侏儒の言葉 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
私ごとき浅学菲才ひさいの者が講義するのですから、とうてい皆さまの御満足を得ることができなかったことは、私自身も十分に承知しておりますし、また貴いこの『心経』の価値を
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
みずから粉骨砕身ふんこつさいしんして新道をきりひらくかせぬことには、鍛刀のわざもこれまでである——こう思ってわしは寝る眼も休まず勤労して来たものだが、菲才ひさいはいかにしても菲才で
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
いはんやその全般にわたつて、自ら許すていの手腕を養ひ来るをや。余は指を折つて、余が留学期の長短を考へまた余の菲才ひさいを以て、期限内に如何ほどか上達し得べきかを考へたり。
『文学論』序 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「以前は、袁紹えんしょう従事じゅうじとして仕えていましたが、天子のご還幸を聞いて、洛陽へ馳せのぼり、菲才ひさいをもって、朝に出仕いたしております」
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
菲才ひさいなる僕も時々は僕を生んだ母の力を、——近代の日本の「うらわかきかなしき力」を感じてゐる。僕の歌人たる斎藤茂吉に芸術上の導者を発見したのは少しも僕自身には偶然ではない。
僻見 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
臣、草廬そうろを出てよりはや十余年、菲才ひさいを以て君に仕え、いま巴蜀はしょくを取ってようやく理想の一端は実現されたかの感があります。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
故に、ひそかにお名を心に銘じ、あなたの徳を慕っていた拙者です。もし菲才ひさいをお用いくださるなら何で労を惜しみましょう
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「おひきうけできません。この大国、またこの難局、どうして菲才ひさい玄徳ごときに、任を負うて立てましょう」
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「さればこそ、水戸家だけでも菲才ひさいには重荷にすぎる身を、こうして、ご当家のお為には、粉骨砕身ふんこつさいしんを誓っておりますが、なお、ご不満でございましょうか」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
思う情の切なるものは、充分に拝察できましたが、如何せん、私はまだ若年、しかも菲才ひさい、ご期待にこたえる力がないことを、ただただ遺憾に思うばかりです
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「われ今、菲才ひさいをもって、首将の座に推さる。かかる上は、功ある者は賞し、罪ある者は必ず罰せん。諸公、また部下に示すに、厳をもってのぞまれよ。つつしんで怠り給うなかれ」
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)