草市くさいち)” の例文
あしたが草市くさいちという日に、お雪はいつものように文字春のところへ稽古に来た。丁度ほかに相弟子のないのを見て、彼女は師匠に小声で話した。
半七捕物帳:16 津の国屋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
やがて盂蘭盆うらぼんがきた。町の大通りには草市くさいちが立って、苧殻おがら藺蓆いむしろやみそ萩や草花が並べられて、在郷から出て来た百姓の娘たちがぞろぞろ通った。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
塩市しおいち馬市うまいちぼん草市くさいちが一しょくたにやってきたように、夜になると、御岳みたけふもとの宿しゅく提灯ちょうちんすずなり、なにがなにやら、くろい人の雑沓ざっとうとまッであった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
十二日も十三日も盂蘭盆の草市くさいちで、廓も大門口から水道尻すいどうじりへかけて人の世の秋の哀れを一つに集めたような寂しい草の花や草の実を売りに出る。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
江戸へはいると、草市くさいち羽子板市はごいたいちよと、あわただしく雑沓している都会の雰囲気ふんいきが、ぬるい気持に彼女をつつんで、四囲の人の目も冷ややかに光る、地方を追われ通して来たお蝶をほっと息づかせて
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
先月かぎり廓へ足蹈みも致さぬが、ゆうべは仲の町の草市くさいちであつたな。市は相變らず繁昌したことであらう。
箕輪の心中 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
言うまでもなく、その日は盆の十二日だから草市くさいちの晩だ。銀座通りの西側にも草市の店がならんでいた。
海亀 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
今夜はここらの組屋敷や商人店あきんどみせを相手に小さい草市くさいちが開かれていたのであるが、山の手のことであるから月桂寺の四つの鐘を合図に、それらの商人もみな店をしまって帰って
異妖編 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)