)” の例文
女中か、私はね、雪でひとりでに涙が出ると、っと何だか赤いじゃないか。引擦ひっこすってみるとお前、つい先へ提灯ちょうちんが一つ行くんだ。
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
娘が疲れてんやりした顔付きで次の間で帯を解いてゐると、弟共が物音で寝床から起きて来た。ぼけまなこで姉を取囲みながら、何か尋ねてゐる。
愚かな父 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
「まだ御勉強でございますか。朝がお早いのでございますからもうおやすみにならないと明日んやりなさいますよ。」
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
彼女は雨戸に手をかけたままで、んやり前方の空間を眺めていた。そこには大観覧車の円芯の辺りを、二、三条の夕焼雲が横切っていて、それが、書割の作り日の出のように見えた。
絶景万国博覧会 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
平次はガラツ八のつとした顏をかへりみました。
汽車に乗つてから、私も妙に疲れてしまつて、上野までんやりして参りました。大森の御隠居様が大変心配なさつて、電報で弟の様子を訊ねたりして下さいました。
姉弟と新聞配達 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
暮れて行く往来の向うは、もう両側の生垣の色も、墨で塗つたやうにつと黒くなつてゐる。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
その前で、朝枝はんやりと、一つの鉢をみつめていた。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「いや。家のものばかりだ。さつきから下へ下りてんやりしてたところだ。」
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
月の在処ありかだけがんやり分る。……
朧夜 (新字旧仮名) / 犬養健(著)