苦虫にがむし)” の例文
旧字:苦蟲
御本家に飼殺しの親爺おやじ仁右衛門、渾名あだな苦虫にがむし、むずかしい顔をして、御隠居殿へ出向いて、まじりまじり、煙草たばこひねって言うことには
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
つまらぬ暇つぶしにしびれをきらして、天堂一角は苦虫にがむしを噛んでいたが、つい周馬の独り言に誘われて、側からこうたずねだした。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
むつかしやの苦虫にがむしの公爵が寝床の中でこの歌を始める。これがヴァレンティーヌ夫人、ド・ヴァレーズ伯爵、ド・サヴィニャク伯爵へと伝播でんぱする。
莫迦ばかな奴じゃ」提督は、いよいよ苦虫にがむしを噛んだような顔をした。演習ではあるまいし、救援が出来るものか。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それこそ、苦虫にがむしみつぶしたような顔をしていた。ひどく怒っているようだ。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
常から放縦な恋愛を顰蹙ひんしゅくする自分は大杉のかなりに打明けた正直な告白に苦虫にがむしつぶさないまでも余り同感しなかったのを気拙きまずく思ったと見えて、家が遠くなると同時に足が遠のいてしまった。
最後の大杉 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
おとよの父は評判のむずかしい人であるから、この頃は朝から苦虫にがむしを食いつぶしたような顔をしている。おとよの母に対しては、これからは、あのはまのあまなんぞ寄せつけてはならんぞとどなった。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
家族が集まると、どの顔も、みんな苦虫にがむしみつぶしたようだ。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
いんね、わし一人じゃござりましねえ。喜十郎様がとこの仁右衛門の苦虫にがむしと、学校の先生ちゅが、同士にはい、門前もんまえまで来っけえがの。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
苦虫にがむしつぶしても居堪いたたまれないだろう。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)