若侍わかざむらい)” の例文
やがて、九段下から中坂なかざかのほうへ曲ろうとするとき、向うにぽっちり人影が見えて来たが、夜遊びにでも出た若侍わかざむらいであろうと、誰も気にする者はない。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
同時のようにそこへ引っ立てられて来た姿は、女ばかりだと思われたのに、若侍わかざむらいらしい者も一緒の二人だった。
老中の眼鏡 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
げた! と聞いておどろいた熊蔵くまぞうや、張合はりあいぬけのした若侍わかざむらいたちが、半信半疑はんしんはんぎの目をさまよわせて、どこへげたのかと明け方にちかい八方の天地をながめまわすと——。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
恐怖が事実となってあらわれた。そこここに雨戸を開ける音がしはじめた。おっとり刀で飛び出す者もあった。一家の主人も部屋住へやずみ若侍わかざむらいも、その悲鳴を聞いた者は月の下を駈けつけた。
女賊記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
大兵肥満たいひょうひまんの甘利は大盃たいはいを続けざまに干して、若侍わかざむらいどもにさまざまの芸をさせている。
佐橋甚五郎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
講武所風のまげに結って、黒木綿の紋附、小倉の馬乗袴うまのりばかま朱鞘しゅざやの大小の長いのをぶっ込んで、朴歯ほおばの高い下駄をがら付かせた若侍わかざむらいが、大手を振って這入って来た。彼は鉄扇てっせんを持っていた。
二階から (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
おなじくお帳番ちょうばんのひとりとして、出仕しゅっしして間もない若侍わかざむらいである。かみしもの肩先が細かく震えているのは、武士らしくもない、泣いてでもいるのか、喬之助は顔も上げ得ない。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
おもての方も気がかりになるが、咲耶子さくやこをにがしては浜松城はままつじょうのほうへいいわけが立たんことになる。なにを打ちすてても、すぐ腕利うでききの若侍わかざむらいをつれて、源氏閣げんじかくの上へかけつけてくれい
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なかにも伊部熊蔵は、うでのすぐれた若侍わかざむらいり、いちはやく白壁門しらかべもんへまいってりふせいでおりますから、ッつけ四十や五十人の浮浪人ふろうにんども、みなごろしにしてもどるでございましょう
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)