花鋏はなばさみ)” の例文
弦を切って投げつけた花鋏はなばさみだけは受けとめたけれども、小森は歯噛みをして、空しくその敏捷な男の走るのを見送るだけでありました。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
庭の沓脱くつぬぎ石の上に木犀もくせいの枝のったのが捨ててあり、縁側に花鋏はなばさみがあった。木犀を剪って、活けるつもりで、そのまま出奔したもののようであった。
山彦乙女 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
花屋の向いに古道具屋があった。ほこりのたまったウインドの中に、ナイフが一つ、煙草たばこケースや小さなつぼ花鋏はなばさみなどのがらくたに交って並んでいた。ミネはそれを見せてもらった。
妻の座 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
植木鉢うえきばちをいじる人は花鋏はなばさみの人よりもはるかに人情がある。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
といいながら花鋏はなばさみ手燭てしょくをもっておりてきた。
小品四つ (新字新仮名) / 中勘助(著)
花鋏はなばさみの音もほうきの音もしない。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
女は家へ戻って花鋏はなばさみと紙を持って来た。そして柴折戸しおりどをあけて、こちらへ出て来ると、片袖をぐっと絞り、垣の間へ手を入れて、巧みに花枝を切った。
雨の山吹 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
抜打ちにした小森のかおをめがけて、一挺の花鋏はなばさみを投げつけた旅人風体りょじんていの男。笠を冠って合羽を着て草鞋わらじに脚絆なのが、桟敷の下をもぐって身を隠したその素早すばやいこと。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
女でも薙刀なぎなたの一手も心得ていようものなら、あとから助太刀すけだちと出るところなんですが、悲しいことにわたしは花鋏はなばさみよりほかに刃物を扱ったことがない女でございますから、こわい思いをしながら
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)