色街いろまち)” の例文
「まだいうかっ。あらぬ讒訴ざんそもいい加減にしろ。ははあ、なんだな、何かきさまこそ、わしの留守中に、色街いろまちおんなにでもひッかかって」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
倉田工業から電車路に出ると、その一帯は「色街いろまち」になっていた。電車路を挾んで両側の小路には円窓まるまどを持った待合が並んでいる。夜になると夜店が立って、にぎわった。
党生活者 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
私の宿の近所は色街いろまちで、怪しげな灯影ほかげ田舎女郎いなかじょろうがちらちらしています。衰えた漁村の行燈あんどんに三味線の音などこおりつくようにさむざむと聞こえます。近状知らせて下さい。
青春の息の痕 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
その中で鬢附の匂い……そして、色街いろまちのことがふっと頭に浮ぶ……。そうなると、その日は駄目だが、一晩遊んで翌日からは、平素に倍して実験に身がはいる……と云うんだ。
裸木 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「道理でいきじゃと思うたわい。暇があらば人間、色街いろまちにも出入りしておくものじゃな」
訊いて見ねえ、あの人はもと色街いろまちにゐた人だから
色街いろまちでは海鼠なまこのような安先生も、ひとたび重病人の生命に直面するや、さすが別人のように、どこか名医の風がある。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
寺の角から新堀伝いの左へ下ると、退屈男とはめぐる因果の小車おぐるまのごとくに、切っても切れぬ縁の深い新吉原の色街いろまちでした。——もうここまで来れば匂いが強い。右も左も江戸の匂いが強いのです。
わけて馬関の色街いろまちは、彼や山県狂介やまがたきょうすけや、伊藤俊輔などのために、夜ごとの不夜城をつくっているかにみえた。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「などといっても、おまえは元来諸所方々でちともてすぎる。うっかり色街いろまちおんななどにはまりこむなよ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こもの十郎とお稚児ちごの小六の肩にすがって、汚れた夜更よふけの色街いろまちを、蹌踉そうろうともどって来るのだった。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
からっとよく晴れた昼間ほど、手持ち不沙汰ぶさたにひっそりしている色街いろまちであった。
春の雁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)