船板塀ふないたべい)” の例文
船板塀ふないたべいをした二階家があって、耳門くぐりにした本門ほんもん簷口のきぐちに小さな軒燈けんとうともり、その脇の方に「山口はな」と云う女名前の表札がかかっていた。
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
四辺あたりに似ない大構えの空屋に、——二間ばかりの船板塀ふないたべいが水のぬるんだいせきに見えて、その前に、お玉杓子たまじゃくし推競おしくらで群るさまに、大勢小児こどもたかっていた。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大きなたらひほどの水溜りになつて居たさうですが、平次の活躍して居た頃はまだ池の形のあつた頃で、その池のほとりに、あつらへたやうな見越しの松、船板塀ふないたべいの中に納まつたお染を
引っ返してくる跫音あしおとに、庄次郎はまた、逃げだした。濡れた浴衣ゆかたすそすねにからみついて、とても、長途ながみちはむずかしい。秋葉神社の方へ向いて、半町ほど走ると、いき船板塀ふないたべいが見え、天水桶てんすいおけがあった。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いやに殊勝しゅしょうなことを云うぜ、また、刑事から注意でもせられたのだろう、駒形堂こまがたどうの傍の船板塀ふないたべいとかんとか、変なことを云ってたから……」
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「もとは柳橋やなぎばしにいた奴だよ、今は、駒形堂こまがたどうの傍に、船板塀ふないたべい見越みこしまつと云う寸法だ、しかも、それがすこぶるの美と来てるからね」と小声で云って笑顔わらいがおをした。
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)