膏切あぶらぎ)” の例文
両足を湯壺ゆつぼの中にうんと踏ん張って、ぎゅうと手拭てぬぐいをしごいたと思ったら、両端りょうはじを握ったまま、ぴしゃりと、音を立ててはす膏切あぶらぎった背中へあてがった。
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
待つ間ほどなく現われたのは、剃り立ての坊主頭の被布ひふまとった肥大漢で、年は五十を過ぎているらしく、銅色をした大きな顔は膏切あぶらぎってテカテカ光っている。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
衣紋えもん背のなかばに抜け、帯は毒々しきの上に捩上よれあがりて膏切あぶらぎったる煤色すすいろの肩露出せり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかしその膏切あぶらぎって肥満しているところを見ると御馳走を食ってるらしい、豊かに暮しているらしい。吾輩は「そう云う君は一体誰だい」と聞かざるを得なかった。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
貸本屋へしけ込むのは、道士逸人いつじん、どれも膏切あぶらぎった髑髏しゃれこうべと、竹如意ちくにょいなんだよ——「ちとお慰みにごらん遊ばせ。」——などとお時の声色をそのまま、手や肩へ貸本ぐるみしなだれかかる。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
肝まで溶融とろけて、蕩々とろとろ膏切あぶらぎった身体な、——気の消えそうな薫のい、湿った暖い霞に、虚空はるかに揺上げられて、天の果に、蛇の目玉の黒金剛石くろダイヤのような真黒まっくろな星が見えた、と思うと、自然ひとりで
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)