胡籙やなぐい)” の例文
右の方の壁の傍には、張った弓をかけ、下へ立てた胡籙やなぐいに十本ばかりの矢が入れてあった。
庭の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
道清みちきよめの儀といって、御食みけ幣帛みてぐらを奉り、禰宜ねぎ腰鼓ようこ羯鼓かっこ笏拍手さくほうしをうち、浄衣を着たかんなぎ二人が榊葉さかきはを持って神楽かぐらを奏し、太刀を胡籙やなぐいを負った神人かんどが四方にむかって弓のつるを鳴らす。
顎十郎捕物帳:23 猫眼の男 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
色紙短尺に歌を書くよりほかには能のない、又はおいかけをつけて胡籙やなぐいを負うのほかには芸のない、青公家あおくげばらや生官人なまかんにんどもとは違って、少納言入道信西は博学宏才を以って世に認められている。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その心づかいはかつての日の橘のあでやかなおもかげをしのぶ好箇こうこのよすがでもあった。津の父も、和泉の父も、狩衣かりぎぬはかま烏帽子えぼし、弓、胡籙やなぐい太刀たちなどをその棺に入れ、橘の姫の美しさに添うようにした。
姫たちばな (新字新仮名) / 室生犀星(著)
狩の慰みにもと長押なげしに丸木弓と胡籙やなぐいが用意されてあった。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)