老耄おいぼ)” の例文
恐らく、それと共に、今日の僕の記憶力も、臨終の床に夢を見る老耄おいぼれどもの乾枯ひからびた脳髄と同じくらいに衰耗しているのに違いない。
二十歳のエチュード (新字新仮名) / 原口統三(著)
それは勿論「脱走」に備えたものだった。その見張りの役が、今は老耄おいぼれて仕舞ったが、昔はこの一座を背負って立った源二郎じじいなのだ。
夢鬼 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
……それだけに私の身になってみれば、自分のものに致したいので。……で、お願いいたしますじゃ。……可哀そうな老耄おいぼれた老人を、功徳と思って喜ばせて下されとな。
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
この法外にだらだらと長い奇妙なお城は、どこか老耄おいぼれの廃兵といった恰好をしている。
自分が決してどん底の者でないことが感じられていたのだが——沢やの婆が行ってしまったら、後に、誰か自分より老耄おいぼれた、自分より貧乏な、自分より孤独な者が残るだろうか?
秋の反射 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
おれはびょうたる一平家へいけに、心を労するほど老耄おいぼれはせぬ。さっきもお前に云うた通り、天下は誰でも取っているがい。おれは一巻の経文きょうもんのほかに、つるまえでもいれば安堵あんどしている。
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「お前老耄おいぼれたのだ。銃殺だなんて。その位の事で。お前どうかしてゐるのだ。」
しかるにどうも西園寺侯は、国民の輿望に反して為す無きことが曝露ばくろした様である。その他維新当時の勇士も、今日は大概老耄おいぼれてしまって、もはや実際の役に立つものは極めて稀である。
選挙人に与う (新字新仮名) / 大隈重信(著)
親父の源太郎は今こそ老耄おいぼれた顏をして居るが、あれでなか/\の軍師さ
忠之、「如水公の時屡々武功あったと云うが老耄おいぼれたのか」と罵って之を斬ろうとする処に弟隆政現れて漸く止めた。睡鴎暫く四方を観望して居たが、忽ち大喝たいかつして軍を進めついに大江門を抜いた。
島原の乱 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
老耄おいぼれた街路も夜の帽子をかぶるがいい。」
エエお前もそう老耄おいぼれては仕方がない、頭を
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
いつも罵倒していた「老耄おいぼれの繰り言」を、僕もまた実行したわけだ。九月の二十四日から今日まで、僕は寸暇も休まずに書き殴って来た。
二十歳のエチュード (新字新仮名) / 原口統三(著)
平太夫も近頃はめっきり老耄おいぼれたと見えまして、する事為す事ことごとく落度おちどばかりでございます。いや、そう云う次第ならもうあなた様の御前おまえでは、二度と神仏の御名みなは口に致しますまい。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
親父の源太郎は今こそ老耄おいぼれた顔をしているが、あれでなかなかの軍師さ
彼は絵札を出す時には、片手でトンとテーブルを叩いて、それがクイーンなら『さあ行け、老耄おいぼれの梵妻ぼんさいめ!』またキングなら『行っちまえ、タンボフ県の土百姓め!』などと捨台詞すてぜりふを言ったものだ。
希望も残っていないわけではない——あわれな、戸惑いした、老耄おいぼれの祈祷はこうだ——気まぐれな廿世紀の守護神が、この忘れ去られようとする極東の小島に、白羽の矢を送らないと
二十歳のエチュード (新字新仮名) / 原口統三(著)