羯鼓かっこ)” の例文
猥雑な歌が響き渡って、羯鼓かっこがじゃらじゃらと鳴り、はやし拍子には口笛がはいった。例の女はくるみをかみ割りながら笑っている。
哀々あいあいたる銅角どうかくを吹き、羯鼓かっこを打ち鳴らし、鉦板しょうばんをたたいて行く——葬送の音楽が悲しげに闇を流れた。兵馬みな黙し、野面を蕭々しょうしょうと風もく。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
笛や羯鼓かっこや竪琴の音も絶えて、七絃琴は糸が切れたように顫えてきこえた。一座ただ沈黙あるのみであった。
音楽の音はかすかではあるが美妙びみょう律呂りつりょを持っている。楽器は羯鼓かっこと笛らしい。かねの音も時々聞こえる。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
多数の牡獅子おじしと、牝獅子めじしと、小獅子こじしとが、おのおの羯鼓かっこを打ちながら、繚乱りょうらんとして狂い踊ると、笛と、ささらと、歌とが、それを盛んに歌いつ、はやしつつ、力一ぱいに踊るが
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
道清みちきよめの儀といって、御食みけ幣帛みてぐらを奉り、禰宜ねぎ腰鼓ようこ羯鼓かっこ笏拍手さくほうしをうち、浄衣を着たかんなぎ二人が榊葉さかきはを持って神楽かぐらを奏し、太刀を胡籙やなぐいを負った神人かんどが四方にむかって弓のつるを鳴らす。
顎十郎捕物帳:23 猫眼の男 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
その背景の前に時たま現れる鳥影か何ぞのように、琴や琵琶びわの絃音が投げ込まれる。そして花片の散り落ちるように、また漏刻ろうこくの時を刻むように羯鼓かっこの音が点々を打って行くのである。
雑記(Ⅰ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
その苞は、ここにこの娘の胸に、天女が掛けた羯鼓かっこに似ていた。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
酒気は、満堂にみなぎり、誰の顔にも、すぐ燃えそうな脂がてかてかし出した。羯鼓かっこを打つ、笛を吹く、鉢をたたきちらす。そろそろ、酒戦場風景である。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
羯鼓かっこを打ちならして、引きわける。